吉祥読本

読書感想。面白そうな本なら何でも読みたい!

風呂上りの夜空に --小林じん子

この漫画は80年代にヤングマガジンで連載されていました。
知らない人が多いと思いますが、私の中では好きな漫画ナンバー1といってもいいくらいの
傑作なのです。
小林じん子は天才だと、当時、ラ・サール石井もテレビで言ってましたが同感です。
本作から受けた影響は計り知れません。
たかが漫画に大げさだなあ、と思われるかもしれませんが・・・

当時、ヤングマガジンには「BE-BOP-HIGHSCHOOL」や「AKIRA」などが連載されていてそれらを
見るために買っていたので、「風呂上りの夜空に」は当初全く眼中になく、読み飛ばしていました。
考えてみると凄い組み合わせですね。

なんでヤンマガに少女漫画が掲載されてんの?くらいの印象でした。

ところがです。たまたま時間があって読んでみた「16の接点」という話しを読むや
「何てこった!!」と思い、後悔しました。とても響いてきたのです。
BE-BOP-HIGHSCHOOL」なんて読んでる場合じゃないぞ、との思いから
既に出ていた1、2巻を買って最初から読み始めました。
そしてそれ以降ヤンマガが発売されると即日買いで真っ先に読んでました。

この作品を簡単に説明すると、ある高校を舞台にした「恋愛コメディ漫画」になってしまいます。
BE-BOP-HIGHSCHOOL」とはまるっきり違う高校生たちですね(笑)
本来の私なら「恋愛コメディ漫画」は拒絶反応を示すはずなのですが、
ことはそんな単純なものではありません(笑)


主人公二人の恋愛を軸に、一話完結で物語は進みます。
題名はRCサクセションの代表曲からアレンジしているし、ファッションも今見ると古臭いです。
80年代の音楽知識がないと十分に楽しめないのが残念ですが、本質はそこにはありません。

二人の周りを固める個性豊かなキャラクターたちがいい味を出していて、
彼らがいないと話は成り立ちません。
実は彼らこそ主役かもしれません。
のちに宇宙飛行士や大リーグチームの監督になったりしちゃいます。
今や日本人宇宙飛行士はいますし、大リーグの監督こそまだいませんが、大リーガーはいっぱいいます。
ソ連崩壊も本作では予測されていました・・・(笑)
当時荒唐無稽な話しだと思っていたことが現実になっているところが凄いなあ、と今更ながら思います。


全く違う複数の話が淡々と描かれ、それが最後に見事に絡まりあってクライマックスを迎えます。
何話か前のネタが突然さりげなく話の中にでてくることでいきなり世界が立体的になって、
連続性を持ちミラクルで不思議な話しになったりします。
一話完結ですが、色んなパターンの展開があってあなどれません。

そう、最近気付いたんですが、伊坂ワールドのような仕掛け(伏線)がいっぱいある作品なんです。
この作品の画風(というのか?)はシンプルなタッチなので軽く読み飛ばしてしまいそうになるのですが、
一コマ一コマを注意深くみていると細かいこだわり、メッセージが見えてきます。
本当に文字でメッセージが入っていることもありますが。
時にはコマの外に作者のつぶやきがあったりして見逃せません。
だから何度読んでも新しい発見があったりします。
(ONE PEACEのパンダマン探しとはちょっと違います(笑))


伊坂幸太郎同様、小林じん子は、とてつもないストーリーテラーだったんですね。

そして伊坂幸太郎同様、心に残る何気ない言葉をいっぱい残してくれています。

その中でも主人公の「もえ」が言った「思い込みがエネルギー」という言葉に
どれだけ助けられたことでしょう。


小林じん子のその後は、この作品を越えることは出来ませんでしたが、
この作品を描いてくれたことに感謝しています。

この漫画に出会えて本当に良かったと思っています。


でも、若い人が今読んでも理解できないんだろうなあ。
80年代の空気の中で読むとカッチリはまる作品なんですが・・・

書いているうちにまた読みたくなってきました。