吉祥読本

読書感想。面白そうな本なら何でも読みたい!

不思議のひと触れ --シオドア・スタージョン

ちゃんと働いて給料をもらい、だれにも憎まれず、それを言うならだれにも好かれない。
どこにでもいるそういう平凡な人間に不思議のひと触れが加わると…? 表題作をはじめ、
円盤は女になにを話したか?…魅力の結晶「孤独の円盤」、
ベスト級のホラー「もうひとりのシーリア」、名高き「雷と薔薇」、
少年もの代表作「影よ、影よ、影の国」、単行本初収録の「裏庭の神様」「ぶわん・ばっ!」、
さらに幻のデビュー作「高額保険」ほか本邦初紹介の3篇を含む、全10篇を収録。
(「BOOK」データベースより引用)

 

スタージョンとしては比較的読み易く、スタージョンって優しい人だな、そんな読後感です。
とりあえず感想というか、メモを残します。

 

「高額保険」
 スタージョンのデビュー作でもあるショートショート作品。
 もしかして本来はミステリーを書きたかったのか?
 この作風自体に意表をつかれたので意味も無くニヤリとしてしまいました。
 笑うところは何も無いんですが。

 

「もうひとりのシーリア」
 スリムは同じアパートの下の階の住人であるシーリアの私生活に興味を持ち、
 自分の部屋からその私生活を のぞき見たり、侵入したりを繰り返す。
 全く生活感の無いシーリアの部屋にあった鞄のなかにあったものは・・・ ホラー作品ではあるが、
 宇宙人みたいな存在を描いたのかもしれない。
 子供の頃、こんな事象が不思議話としてテレビや本で紹介されていたなあ。。。結構好みの作品。

 

「影よ、影よ、影の国」
 虐げられている子どもの小さな世界で起きた出来事を描いているダークファンタジーのような作品。
 スタージョンのお得意技って気がする。グレムリンを思い浮かべた。

 

「裏庭の神様」
 ちょっとコミカルで笑える作品。ケネスは裏庭から掘り出してしまった偶像(ラクナ)から
 「口にしたことはすべて真実になる」能力を授かった。
 嘘つきケネスは大金を得て散財を繰り返すが、妻がその様子に疑問を持つようになる。
 嘘つきはいつまでたっても懲りないのかな(笑)

 

「不思議のひと触れ」
 人魚をきっかけに出会った二人のほんわかするような様子を描いただけといえばそれまでだが
 スタージョンが料理するとこんなファンタジーになるんだな。

 

「ぶわん・ばっ!」
 ジャズ小説って分野があるのかは知らないが、音楽は楽器がなくても奏でられるってことだね。
 「本物」はどんな形であれ、いいものはいいのだ。

 

「タンディの物語」
 人をいらつかせてばかりいる子供が、ブラウニーのぬいぐるみで遊び始めてから
 変化し始めるって話しなんですが説明が難しいなあ。途中から終盤にかけてグンと面白くなる。
 登場人物の名前が全部スタージョンの子供の名前らしい。

 

「閉所愛好症」
 あまり社交的ではないコンピュータ技術者であるクリス・ビンズは下宿にやってきた美女、
 ガーダ・スタインの話し相手になっているうちに彼女の話しにどんどん引き込まれていく。。。
 家族間のミクロの話しから突然ズームアウトしながら一気に地球を俯瞰するような物語に展開する。
 スタージョンらしい加速度と視点の切り替えに魔術を感じる。

 

「雷と薔薇」
 読んでいてネビル・シュートの「渚にて」を思い出す。案の定、解説でも言及されていた。
 テーマは同じで核戦争による世界の終末へ向かう話しだが、こちらの作品のほうが好きです。短いし(笑)
 敵に託すという判断はスタージョンの優しさを感じさせます。
 薔薇の棘が自らを傷つける話しには、多くの人間が身につまされないといけない。

 

「孤独の円盤」
 読み終わった時の余韻が素晴らしい。スタージョンがお得意とする題材でもある孤独感を
 描きつつ綺麗にまとめた出会いの話。孤独はいつか開放される、そんな希望をこんな形で
 書き上げてしまうなんて。円盤と手紙を入れた瓶のつなげ方、発想に脱帽。

 

短編でありながら読み応えは十分。スタージョンの料理はありふれた素材でも独特の旨さに仕上げてくれる。
ガチガチのSFでもなくホラーでもなく、まさしく奇想コレクションというシリーズに相応しい
ストーリーたちでした。
シリーズを揃える事を考えていない方は河出文庫からも出ているので、スタージョンはいかが?