吉祥読本

読書感想。面白そうな本なら何でも読みたい!

海を失った男 --シオドア・スタージョン

魔術的な語りで読者を魅了する伝説の作家、シオドア・スタージョン。頭と左腕を残して砂に埋もれた男は何を夢みるか―圧倒的名作の表題作、美しい手と男との異形の愛を描いた名篇「ビアンカの手」、墓を読む術を学んで亡き妻の真実に迫る感動作「墓読み」他、全八篇。スタージョン再評価に先鞭をつけた記念碑的傑作選。
(「BOOK」データベースより引用)

 

音楽/ビアンカの手/成熟/シジジイじゃない/三の法則/そして私のおそれはつのる/墓読み/
海を失った男



いやあ、面白いなあ。
「人間以上」を読み解けているとは言いがたいが、本作のいくつかの収録作品に同種の匂いを感じた。
だからある意味スタージョンを理解しやすい、かも。
独創的なことは間違いなく、それぞれの作品に味わいがあり、時にユーモアを感じる。
スタージョンのしたり顔が浮かぶようだ。

 

以下、感じたままに走り書きます。いつも以上に読み間違えている可能性があるので要注意です。



とても短い作品の「音楽」は、滑らかに移り変わる視点にスタージョンの世界観が凝縮されていてお見事。

 

・「ビアンカの手」
 ホラーっぽいオチだけど、不思議な展開の恋愛物語とも言える。

 

・「成熟」
 胸腺機能亢進症の少年(青年)が治療を受けることで生じた変化を描いているが、
 成熟とはなんぞや、と考えさせる作品。

 

・「シジジイじゃない」
 夢と現実のハザマに得体の知れない恐怖を描いた作品。

 

・「三の法則」
 分野としてはSFを感じるが、今まで読んだ事の無いタイプ。
 侵略物かと思いつつそこはただの状況設定。二人一組を基本とする秩序で保たれている世界に、
 三人一組を基本とする思考が割り込もう、融合させようという状況を描いているこれまた不思議な世界。

 

・「そして私のおそれはつのる」
 大きな能力を持つ人間により不思議な能力を開花することとなる男が成長し、
 更に愛の力を得る事でより大きな能力を発揮する事になる。冗長さを感じつつもわかりやすい展開でもある。

 

・「墓読み」
 やはり能力者の話だが、八篇中、最もわかりやすい物語。
 個人的な話しで申し訳ないが、十代の頃から二十代前半の頃に、どうしても自分の気持ちをうまく
 言葉で表現できず、 言葉さえ無ければちゃんと伝えられるのに、と思ったことがある。
 そんな事を思い出した作品。

 

・「海を失った男」
 頭と左腕以外は全て砂に埋もれいる男が、徐々にそこに至る状況に思いをめぐらせる。
 何だか判りにくいなあと思いながら読んでいたが、その絶望的で孤独感たっぷりの結末に
 やられてしまいました。



とにかく「作品を読む」イコール「スタージョンという人物を知る」と言えるのではないでしょうか。
SFという分野では語ることができない、スタージョンという分野と言いたくなる作品たちに鳥肌が立つ思いである。
立て続けに読むには濃すぎるので少し間をあけるが、積んでいる作品を棚卸ししたくてたまららない。