「熊が火を発見する」「アンを押してください」「未来からきたふたり組」「英国航行中」
「ふたりジャネット」「冥界飛行士」「穴のなかの穴」「宇宙のはずれ」「時間どおりに教会へ」
以上9編
まずはなんといってもヒューゴー賞、ネビュラ賞、ローカス賞、デイヴィス読者賞、スタージョン記念賞獲得という
輝かしい受賞歴を持つ「熊が火を発見する」。
もっとド派手な作品かと思いきや、とても優しく静謐な作品で、いい意味で予想を裏切る作風に驚きました。
熊が松明を持っていたり、火を囲んで静かに暖をとっていたり、状況的には変だがちっとも違和感無く読めてしまう。
初読では、あれ?って感じの淡白さだったが、二度読みしてみてしみじみとするファンタジー作品であることを認識した。
「アンを押してください」は、くだらない設定だと思いつつ非常に楽しめた。
こんなATMがあったら面白い。愉快でばかばかしいけど、ラストがキュートでお気に入りの作品です。
「未来からきたふたり組」は未来から来た二人組みの男と絵描きの女性を主人公とした
タイムトリップと恋愛がらみの作品です。
読み易かったけれど、このテイストだとコニー・ウィリスの作品の方が好みかな。
「英国航行中」は本作では一番好きな作品です。
なんとイギリス本島自体がまるっとゆっくり船のごとく海に乗り出してしまいます。
ところがドタバタを描いているのではなく、イギリスらしい落ち着いたティータイムのごとく物語は進行します。
この雰囲気が堪らなく好きです。
『「このイギリスの天気というやつは、謝らないといけないね」とフォックス氏は言ったが、
姪は片手で氏の袖を引いて立ち止まらせ、「自慢しないで」とにっこりしながらいった。』
(本文より引用)
「ふたりジャネット」は都会に暮らすジャネットに母親から電話がかかって来ます。それも公衆電話に。
用件は故郷に有名作家が次々と引っ越してきている。。。。
ただただ変な話で特にそれ以上のことも無いはずなのに奇妙な味わいがある作品です。
「冥界飛行士」は盲目の画家の臨死体験を絵にしようとする話で、突然ダークな世界。
物悲しい雰囲気が漂いますが、作者の幅も感じさせてくれます。
「穴のなかの穴」 「宇宙のはずれ」 「時間どおりに教会へ」の3作品は
「万能中国人ウィルスン・ウー」シリーズとしてまとめて読むことで楽しめました。
いくつもの業種を渡り歩き、弁護士だったり、物理学者だったり数学者だったり
とにかく豊富な知識を持ち合わせているウーと、その友人のアーヴィンが主人公。
二人が電話で噛みあわない会話をするだけで宇宙的規模で起きている大問題を身近なところで解決していくという
ドタバタが描かれる。
判ったふりをしたり、勘違いしあいながらのとぼけた展開がストンと収束していく様が面白い。
途中いくつか出てくる意味不明の数式を見るだけで著者の想像力の豊かさを感じ取ることができます。
なんだかラファティっぽい法螺話だと思って読んでいましたが、巻末で著者の好きな作家にラファティが含まれていると
書いてありました。
まさしくラファティばりの法螺話のオンパレードといった趣です。
ラファティよりはわかりやすくて軽妙ですが、もちろんラファティは大法螺吹きだからレベルが違います(笑)
奇想コレクションとしては読みやすく、いずれの作品も面白いけれど、
今回は「英国航行中」「アンを押してください」「熊が火を発見する」の3本が収穫でした。