吉祥読本

読書感想。面白そうな本なら何でも読みたい!

蒼茫 --石川達三

今年がブラジル移民百周年という節目であるというニュースを最近耳にしました。
正直なところブラジル移民のことは良く知りませんが、ブラジル移民という言葉を聞くと
石川達三の「蒼茫(そうぼう)」を思い出します。
ご存知の方も多いと思いますが、芥川賞の第一回受賞作です。
1935年発表のとても古い作品で、三部作の一つです。
後年、「第二部 南海航路」では航行中の船中での45日間を、
「第三部 声無き民」では、到着後入植するまでの数日間が描かれています。
芥川賞は第一部の「蒼茫」が受賞しています。



この作品との出会いは高校生一年生の時でした。
クラスメイトがこの本を持っていたのですが、私は作者名すら知らないのに
そいつが小難しそうな本を読んでることが悔しかったんです(笑)
おかげで石川達三は本作を含めて10作程度ですが読みまくりました。



ブラジル移民は神戸の移民施設に収容され、そこから移民として送られていました。
その神戸移民収容所ですごす8日間を描いた作品なのですが、
当時の日本の状況が克明に切り取られていたんではないでしょうか。
なんというか貧困に喘ぎながら新天地を求めるエネルギーには圧倒されます。
石川達三自身も移民船に乗ったらしいので、いちいちリアリティーがあるんです。
多くの人たち、決して特別ではない人たちの話ばかり出てくるのですが、何とも言えず物哀しい。

 

ただ、とても哀しい物語かといえばそうとばかりも言えない。
いくら悔しさが原動力となって読み始めたとは言え、高校生が読むには重く投げ出しそうなものだが
結局それ以降の作品を含め読むことを選んだ、
という事は私にとっては面白いと思った何かがあったはずだからだ。

 

いくら生活が苦しいからといって、故郷(日本)を捨てる、という発想は私にはない。
それを実行に移した人たちである。凄いフロンティア精神ではないか!
今思うと、希望を持っている人たちの話でもあるので、そのエネルギーにちょっとした明るさを
感じたのかもしれません。
読み終わったときにはため息が出ました。



ブラジル移民の100年は、かなり辛い歴史でもあったようですね。
詳しい事を知らない私が無責任に感想を書くことはできませんのでここまでにしますが、
普通の人たちを主役とした、ある時代の空気を感じ取れる作品として
本書は大変重要な役割を果たしたのではないでしょうか。