吉祥読本

読書感想。面白そうな本なら何でも読みたい!

沖で待つ --絲山秋子

裏表紙より引用
仕事のことだったら、そいつのために何だってしてやる。そう思っていた同期の太っちゃんが死んだ。
約束を果たすべく、私は太っちゃんの部屋にしのびこむ。
仕事を通して結ばれた男女の信頼と友情を描く芥川賞受賞作「沖で待つ」に、「勤労感謝の日」、
単行本未収録の短篇「みなみのしまのぶんたろう」を併録する。すべての働くひとに。



勤労感謝の日」「沖で待つ」「みなみのしまのぶんたろう」の3篇収録です。



勤労感謝の日
 父親の葬式での上司の態度に激怒して殴りつけることで無職になり、
 車に飛ばされた時に助けてくれた近所の人の面子のために考えてもいなかった見合いをし、
 見合い相手のあんぱんを殴ったような顔をした勘違い男に頭に来て退席してしまい、
 勤めていた会社の後輩を呼び出し毒を吐き、近所の飲み屋で店の主人と他愛も無い会話をする女性の話。
 終わり方があっけなく続きを読みたいと思いましたが、それは野暮ってものでしょうか。
 今まで読んできた作品に共通して感じたヤサグレ感がよく出ていたと思います(笑)

 

 本書の解説をしているフリー編集者は、この作品に出てくる「後輩の女性」です。



沖で待つ
 今までの作品で感じた男女間にある微妙な距離感を非常にわかり易く絶妙に描いています。
 学生の時の友達や、付き合っている異性にすら話さないことをサラリと話し合っていたり、
 同じ境遇の中で似たり寄ったりの不安をかかえながらグチったり、笑ったり秘密を共有したり、
 それでいて恋人でもない、そんな不思議な関係には思い当たることがあるせいか共感できた。

 

 思い起こすと就職してはじめての同期入社した人間というのはライバルという感じはしなかった。
 何度か転職した自分を顧みても、中途入社の時の同期とは明らかに位置付けが違うと思う。
 はじめての同期は、男女関係なく確かに同志だった。(全部じゃないけど)

 

 不思議な設定ではあったけれど、忘れていたものを思い出させてくれつつ、ホロリとする作品でした。
 ただし作者の社会経験に沿っているので、私は共感できたが時代感覚が昭和っぽいかなあ(笑)
 あ、それと最後に出てくる主人公の女性の「秘密」は、いらなかったと思いますけど(苦笑) 



「みなみのしまのぶんたろう」
 全部平仮名とカタカナだけで構成されているので読み辛い。
 主人公の 「しいはらぶんたろう」 は、きっとあの人がモデルだよね。
 風刺いっぱいのファンタジーだね。
 笑えるね。




「みなみのしまのぶんたろう」は別にして(笑)、「勤労感謝の日」も「沖で待つ」も、
なんか好きだなあ、ってつぶやきたくなる作品でした。
ただ、芥川賞の妥当性は、わかりませんが(笑)