吉祥読本

読書感想。面白そうな本なら何でも読みたい!

ショートソング --枡野浩一

「BOOK」データベースより引用
ハーフの美男子なのに内気で、いまだチェリーボーイの大学生、克夫。
憧れの先輩、舞子にデートに誘われたが、連れていかれたのはなんと短歌の会!?
しかも舞子のそばには、メガネの似合うプレイボーイ、天才歌人の伊賀がいた。
そして、彼らの騒々しい日々が始まった―。カフェの街、吉祥寺を舞台に、克夫と伊賀、
2つの視点で描かれる青春ストーリー。人気歌人による初の長編小説。



短歌の世界は全く知りませんから同人グループのことが「結社」と呼ばれる、なんてビックリ。
結社といえば悪とか秘密とか怪しい言葉を思い浮かべるし、普段絶対使わないから新鮮です。

 

話しの内容と言えばどこにでもある、誰にでもありそうな若かりし頃の他愛も無いこと。
何も考えていないようで深く考えていて、人と付き合うことによって生じるどうしようもない不安感や
それぞれの登場人物が一皮向けていく姿などが描かれています。
頻繁に挿入される短歌は、作者本人のものや他の人が発表した本物の作品の引用で
それに合わせたストーリー展開でもあります。
バラバラの短歌をうまい具合にひとつのストーリーに仕立て上げていると感心します。

 

サラッと読みやすいのですが、短歌を絡ませながら表現されているのでつい行間を読んでしまう。
この行間は人によって都合よく共感しながら読み進めればいいのでしょう。

 

同じ題材でもプロと素人の評価する作品の違いを示す例が本書にありましたが、
見事に自分は素人が選ぶ作品の方がいいと思ったので
やはりプロの言う事は説得力があるなと感心しました(笑)

 

プロが評価する作品
 →「痛いのを我慢できない友人が死んでしまった セデス百錠」 --佐藤真由美

 

素人が評価する作品 :
 →「百錠は飲み過ぎだった 痛いのを我慢できないあなたにしても」 --佐藤真由美



チェリーボーイの克夫とプレイボーイの伊賀の対照的な二人の微妙な関係と
勘違いしながら、勘違いが訂正されることもなく進む会話が楽しいけどリアル。
案外こんな勘違いで物事は進んでしまうものかもしれません。
ただ、この二人両方とも、枡野浩一自身の分身なんだろうなと感じます。
外見は伊賀で内面は克夫ってかんじでしょうか。



短い言葉で気持ちを表現することって、その言葉に力を凝縮する作業なんでしょうね。
ついダラダラと書いている感想に反省しきり(笑)



いくつか気になる短歌をピックアップしてみました。

 

 「馬鹿中の馬鹿に向かって馬鹿馬鹿と怒った俺は馬鹿以下の馬鹿」 --枡野浩一
 「振り上げた握りこぶしはグーのまま振り上げておけ相手はパーだ」 --枡野浩一
 「虹を見た もっと見ようと思ったら消えていたけど二人で見てた」 --枡野浩一
 「好きだった雨、雨だったあのころの日々、あのころの日々だった君」 --枡野浩一
 「だいじょうぶ 急ぐ旅ではないのだし 急いでないし 旅でもないし」 --宇都宮敦



最後に、宮藤官九郎が解説短歌として寄せている作品に思ったことがあったので私から。

 

 「ちょっと待て オレにもその石あたるかも 投げ返すから紙ヒコーキにして」 --テラ

 

お粗末!