吉祥読本

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草祭 /恒川光太郎

不思議な町、「美奥」を舞台にした連作短編5篇の物語です。
先月読んだ「南の子供が夜いくところ」は南国を舞台にしていたが
これはどこか懐かしさを感じさせる日本的情緒溢れる作品でした。
子供の頃に遊んだ野原や林、古い家屋や駄菓子屋などの記憶が読みながら蘇ります。
幻想的で不思議な話でありながら、子供の頃に思い描いたことがある世界を描いているために
さほど違和感が無い。
やはり恒川さんは「和」の雰囲気のほうが俄然いいと思います。

 

全編を通して植物から作られる「クサナギ」という薬がでてくる。
この薬が不思議世界へ導入する役割を担っているようだ。
肉親の殺害やいじめなど内容としては陰湿な部分はあるが、会話にさりげなく含まれている
ユーモアなどでさらりと流せてしまう。

 

最も恒川さんの素晴らしさを感じられたのが「天化の宿」。
苦しみを開放するためのゲームが作り出す世界の広がりが見事に表現されていた。
どんなゲームかを説明するのは難しいが、よくも考え出したものだと思うしラストも心地よい。
それぞれの作品は違う方向から「美奥」を描いているが、時間軸が違いつつも小さなリンクを含み、
結果とても立体的な世界観として理解できた。

 

恒川さんの作り出す和風幻想世界は常に安定感、安心感があり、とても貴重な存在だと思います。
これからも当面期待できそう。



作品リスト
けものみち」 「屋根猩猩」 「くさのゆめがたり」 「天化の宿」 「朝の朧町」の5篇