吉祥読本

読書感想。面白そうな本なら何でも読みたい!

こんな話を聞いた ::阿刀田高

久しぶりに読もうかなと思いながら入手したにもかかわらず、更に塩漬けにしていました。
18の短編集です。
各作品の出だしが全て「こんな話を聞いた」ではじまります。
そして短いエピソードがあり、続けて本編に入るフォーマットで統一されている。
エピソードと本編はなんの関係もないように思わせて読み終わると、「なるほど」と合点する。

 

阿刀田作品は若かりし頃、ナポレオン狂があまりにツボに入ってしまったため、
勢いでかなりの冊数を読みました。
そのため正直なところ、本書のどの作品も「どこかで読んだ」感がある。
淡々と日常を描き、そしていつの間にか様々なタイプの違和感に捉われるパターンは昔から変わらない。
だから最初はただの焼き直しじゃないか?と思っていたが、何編か読むうちに何のことはない、
サクッと落とすラストへの展開を楽しんでいた。

 

短編で奇妙な世界を描くことにかけては、日本でも有数の作家さんであることは間違いが無い。
ホラー、狂気、ユーモア等々どの分野であれ阿刀田作品の特徴は昔と変わっていない。
しかしこんなに長い間保ち続ける安定感はどうだ。(勿論はずす事もありましたけどね)
かつて読み漁った時の熱を持って読むことこそできなかったが、
洗練されつくした技術力を見せ付けられた気がする。
イデアは自らの作品や他の作家さんでも書いているようなものが多く、
目新しさも無いが小気味良く展開する文章に「巧いなあ」とつぶやくしかないのだ。