吉祥読本

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宇宙の春

著者:ケン・リュウ
編集、翻訳:古沢嘉通
出版社:早川書房


日本オリジナル第四短篇集。

肉体を離れ、ある意味寿命の無い生命体となりながら、

宇宙の四季(死期?)が繰り返す壮大な宇宙の流れを描いた表題作は

設定が面白い。


会ったことが無い13歳の娘と突然行動を共にすることで関係を

構築していく父と娘を描いた「メッセージ」はオーソドックスながら好きな作品。


三国志より材を得た「灰色の兎、深紅の牝馬、漆黒の豹」は、

最後になってようやく三国志とわかるが、

それを抜きにしても、もう少し読みたいと思わせる作品。


ネットの未来というよりも今ある問題を描く「思いと祈り」などは、

現実に起きた騒ぎを思い起こさせるくらい身近な内容といえる。

 

何より日本人として気持ちが重くなる「マクスウェルの悪魔」や

「歴史を終わらせた男 -ドキュメンタリー」は日本、中国の歴史や考え方を

細かいところまで丁寧に扱っていて感心する。

特に731部隊を絡めた「歴史を終わらせた男~」はSF要素と

歴史要素のみならず、日本、中国、アメリカのそれぞれの立ち位置と

関係者の葛藤が重層的に描かれ、読みごたえがあった。

 

作品メモ
「宇宙の春」「マクスウェルの悪魔」「ブックセイヴァ」「思いと祈り」
「切り取り」「充実した時間」「灰色の兎、深紅の牝馬、漆黒の豹」
「メッセージ」「古生代で老後を過ごしましょう」
「歴史を終わらせた男 -ドキュメンタリー」