著者:アフマド・サアダーウィー
翻訳:柳谷あゆみ
出版社:集英社
自爆テロが頻発するイランを舞台にする物語は翻訳のおかげで
思ってたより読み易かった。
一番苦労したのは人名。
えっと誰だっけ?の連続で主な登場人物のページを行ったり来たり。
後半はだいぶわかるようになったけど。
題名と表紙からホラーっぽいイメージがあったが、主題は違うところにある。
古物商ハーディがテロで犠牲になった死者の肉体を縫い繋ぎ造り出した遺体に
テロの犠牲者の魂が乗り移り姿を消す。
「名無しさん」は復讐を開始するが、肉体が徐々に脱落し、
新たな遺体より断片を集めて補強することを繰り返す。
「名無しさん」を探るジャーナリストや追跡する准将とその部下である
占星術師たち、「名無しさん」の「親」である古物商のハーディなどの
キャラクター設定も終盤の盛り上がりに巧く機能していた。
ほぼ馴染みのないイランの市井の人々の死と隣り合わせの中での生活ぶりや、
強かさや諦観を含むさまざまな感情の描写が、
平和な日本にいる自分に少し痛みを伴いながら色々なことを投げかけてくる。
結局、フランケンシュタイン、いや「名無しさん」の物語ではなく、
あくまで「名無しさん」を通してイランという国を描こうとした作品。
前半こそ読むのがしんどかったが、最後の展開は一気読みでため息。
訳者のあとがきで理解を深めることができたが、
読後に「最終報告書」を読み直すことでストーリーが再認識できた。