吉祥読本

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将棋の子 --大崎善生

大崎善生作品の感想、2本目です。
聖の青春では村山聖という人物をメインに書かれた作品ですが、
本作品は成田というひとりの男を軸に、プロ棋士になれなかった男たちを通して
将棋の世界を浮き彫りにした作品といっていいでしょう。



「BOOK」データベースより引用
奨励会…。そこは将棋の天才少年たちがプロ棋士を目指して、しのぎを削る“トラの穴”だ。
しかし大多数はわずか一手の差で、青春のすべてをかけた夢が叶わず退会していく。
途方もない挫折の先に待ちかまえている厳しく非情な生活を、優しく温かく見守る感動の一冊。
第23回講談社ノンフィクション賞受賞作。



この作品を紹介して頂いたkinakoさんは、挫折して海外に旅立った江越をメインに書いていたので
私はストレートに成田を取り上げてみます(笑)
併せてご覧いただくと、よりこの作品が理解できるのではないでしょうか。
と、こんな連携パスを出してみましたが、いかがでしょうか、kinakoさん(笑)

 

正直なことをいうとこの成田という男は情けないというか、不器用な男である。
子供の頃から地元北海道では神童扱いだったのに、奨励会にはいると普通の男となってしまう。
もちろん奨励会に来る子供たちは日本中の神童が集まるのだから
普通の男になってしまう確率のほうが高い。

 

作者の大崎はこの成田と同郷であり、自身も子供の頃、成田と対局したこともある間柄で
仲良くなるのは当然だったのかもしれない。

 

不器用なまでに自分の戦法にこだわり、一切定跡を勉強しない姿勢は読んでいるこちらにも
合点がいかない。
そしてやはりその意固地さが転落を招くのである。

 

そんな成田を生活の中心に据え、家族たちは影に日向になり成田を支えている。
いい大人が何をやってるんだ!
成田に向かって叫びだしたくなるくらいだらしがない。と言うか多少のことは気にしない。
将棋以外は何をやってもダメ。
親も甘やかしすぎだ!
ついそう思ってしまう。

 

しかし、そうは言っても成田を包む母親の愛情の強さは、悲壮感が漂うものの十分に伝わってきた。
誰にも非難できないのだろう。
愛情の強さに比例するかのように落ちていく成田。
そして結果を出せないまま相次ぐ両親の死。
成田は完全に落ちるところまで落ちる。



この壮絶な世界は、ずっと近くで見続けてきた大崎だからこそ書けたものでしょう。
友達である成田をここまでさらけ出して描いた大崎は相当な覚悟が必要だったはずだ。

 

最後には将棋の存在が成田にとってどんなものだったかがわかる。
そして成田を弾き飛ばしたはずの将棋が、彼を生かしていたことがわかる。
暗いままではなく、最後に明かりが見えていたので読んでいるほうも救われる。

 

「聖の青春」もいい作品でしたが、これも読み応えのある作品でした。



いきなり話しは変わりますが、「文芸」という雑誌で、
大崎善生が好きな小説ベスト3に挙げていた作品が載っていました。以下の3作品です。

 

 

「母なる夜」は未読ですが、あとの2冊はいずれ感想を書こうと思っていたものです。
将棋を舞台にしたノンフィクションしか読んでないので、SFが好きだったなんて意外でした。

 

でも、ちょっと親近感が涌いたのでした(笑)