吉祥読本

読書感想。面白そうな本なら何でも読みたい!

天地明察 --冲方丁

舞台は徳川家綱の時代。
先日読んだ飯嶋和一氏の作品は島原の乱島原の乱が終息した後に生まれたのが
本作の主人公である渋川春海
この流れで読んだのは偶然だったが、同じ時代であってもひたすら重くのしかかる主題を描く飯嶋作品と
からっと爽快で夢や希望を持って元気をもらえる全く対照的な作品である本作を読むことで、
主題が違うとはいえ戦国時代が終息し、新しい時代へ転換する流れを感じる事ができ、
これぞ読書の醍醐味と一人悦に入る今日この頃。

比較してはいけないが飯嶋作品に比べると重厚さがなく、風船のようにふわふわ軽い作品になっています。
この軽さはマイナスに働いているのではなく、むしろ最適な渋川春海像の描き方だったんだと思う。
日本独自の暦を作り、改暦という大事業を一身に背負い、邁進する春海は純真で、礼儀正しく、
才気に溢れ、それでいてどこかとぼけていて嫌味を感じさせないなんとも魅力的な人物です。
だからこそ多くの才人のサポートを受けることもできたわけで。
誰もが協力したくなる人物なのかもしれません。
なかでも前半に出てくる観測隊の建部昌明、伊藤重孝コンビはいい味出してますね。
更に幕府、朝廷の心ある人物たちや、周囲の協力者たちも春海にとってはとてもいい人ばかりです。

作品全体を覆うふわふわ感のなかで春海が頑張る姿が心地よい。
様々な分野の傑物(徳川光圀保科正之酒井忠清関孝和等々)との交流により
彼らの能力や意志を引き継ぎ、そして成長していく姿は読んでいるだけで元気がもらえます。

恋愛パートも多少織り交ぜられますが全く気にならず、むしろ好感をもって読めました。
後半は改暦のために囲碁になぞらえたかのような布石の数々が書かれていましたが
ちょっとそのあたりは流しすぎに感じました。
もう少し大事に、詳しく書いて欲しかったが、長めの作品なので目を瞑るべきか。
それはむしろ飯嶋さんの役割か?(笑) けど、飯嶋さんなら安藤あたりを主役にしそう。


本作では春海に影響を与えた有名な数学者である関孝和会津藩保科正之が魅力的な人物として
描かれています。
どちらも評価の高い人ではありますが、もう少し掘り下げて関連書籍を読みたいと思いました。
以前近所の書店で数学関連のフェアをやっていて、関孝和に関する本を手に取ったんですが
躊躇して戻してしまいました。今となってはちょっと後悔。まあこれからでも良いか。
それと国立科学博物館で暦に関する資料や計算に関する道具などの展示物があったはずなので
近いうちに再訪したいと思います。本書に出てきた道具などがあったような気がしたんですが
いつものとおり自信のない記憶なのであやふやです。
蛇足ですが本書に出てくる金王八幡神社ってどこにあるか調べたら渋谷駅から近い。
ここ行った事あるじゃん!!!むうう、ここにも再訪しないといかんな。

いずれ大河ドラマになりそうなくらい映像的かつ魅力的なキャラが多い作品です。
時代小説が苦手な人にもきっと読みやすい作品ではないでしょうか。