吉祥読本

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垂直の記憶 ::山野井泰史

昨年読んだ沢木耕太郎の作品、「凍」 で描かれたクライマー自信による著書です。
沢木さんの文章は劇的で表現力に関してはプロですから素晴らしい作品でした。
2009年の10冊にいれちゃいましたからね。

 

自ら挑戦したクライミングのことが7章、それに6つのコラムが差し込まれている構成。
ライミングの対象は下記。
「ブロード・ピーク」「メラ・ピーク西壁、アマ・ダブラム西壁」「チョ・オユー南西壁」「レディース・フィンガー南壁」「マカルー西壁、マナスル北西壁」「K2南南東リブ」「ギャチュン・カン北壁」

 

子供の頃から高いところに登りたがる血が騒いだようで後者の屋上からぶら下がったり、10メートルの石垣を登ったりしていたらしいがそれだけでもクライマーとして生まれてきたのだろうと思わせる。
チャレンジしている内容は淡々と書かれているが、いずれも命がけであることは確かで
サラット読み飛ばしてしまいそうになるが凍傷にかかった指や足をチェックしながら
切断するレベルまではいっていないことを確認してクライミングをそのまま続ける、
みたいなことが平気で書かれていたりする。
専門用語の解説も少しだけあるが、それでもわからない言葉がいくつかある。
読者に対するサービス精神が旺盛ではないところも山野井さんらしさを感じて逆に好感を持てる。

 

山野井夫婦が命がけで生還した「ギャチュン・カン北壁」の章はやはり本人の記録だけあってさすがに迫力がある。なんの演出もない気持ちの表現や瞬間の判断を読むと
途轍もない精神力に圧倒されるのみ。
このアタックで手と足の10本の指を失っている。奥さんもとんでもない人だ。
今でもクライミングを続け、常に上を目指している姿勢を崩さない山野井さんには賞賛、尊敬する事ばかり。

 

短いコラムも気難しそうな印象を持つ山野井のユーモラスな一面も垣間見せてくれて
人柄を知る上で役立ちました。
夏にちょっと涼しくなれるかと思いましたが、かえって熱くさせられたような気がします。
山野井さんの今後のご活躍を祈りたいと思います。