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すべてのまぼろしはキンタナ・ローの海に消えた ::ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア

青年はある晩、黒髪の美女が縛りつけられ、漂流しているボートを目にした。女を救出し、浜へと泳ぎ戻った青年は愕然とする。その人物は男だったのだ!盗品とおぼしき大きなルビーを腹部に隠していた男は、よく見るとやはり美しい女にも見える。その男はいったい…。「リリオスの浜に流れついたもの」をはじめ、メキシコのキンタナ・ローを舞台にした美しくも奇妙な物語3篇を収録する連作集。世界幻想文学大賞受賞。(「BOOK」データベースより引用)



物語の舞台はメキシコ、ユカタン半島キンタナ・ロー州
海をめぐる3つの幻想的な話で構成されている。

 

この作品にはメキシコに独立を求めるマヤ族、マヤ族とアメリカの関係など
マヤ族の歴史的背景があるようだがそのあたりに疎いため理解ができていない。
近代化による生活様式や文化的対立などが招く不幸な歴史を念頭にティプトリー
マヤに対する思いをこの作品に籠めたようだ。

 

ホラーや幽霊ものではなく、あくまで年老いた心理学者の語る幻想的な物語としか形容できない。
正直、雰囲気だけを味わう感覚でした。
世界幻想文学大賞受賞は以前もピンと来なくて、相性が悪いような気がします。
言い訳をさせてもらえればこの手の雰囲気を感じる作品は原文を読まないと伝わりにくいのではないだろうか。
翻訳が悪いのではなく、どうしても翻訳の限界があるような気がする。



この作品の巻末に、越川さんという人の「マヤ族と大自然の逆襲」と題する解説が掲載されている。
これを読んで驚いたのがティプトリーがCIAに所属していたということ。
女性で陸軍に入隊、ペンタゴンに勤め、CIAに発足時から勤務していたというのはファンにとっては
常識なのかもしれないが、劇的な人生を歩んでるではないか。
女性であることを隠して小説を書いたこともそうだが、この作品を書くに至った背景も
この経歴が影響しているようです。

 

本作を理解するには知識が足りない事を痛感。