吉祥読本

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海賊の世界史(上下) ::フィリップ・ゴス

多島斗志之さんの「海賊モア船長の遍歴」を読んで自分の中で海賊が盛り上がっていたところ
イムリーにも復刊されたため即入手&積んでおきました。
年末から読み始め、この作品を最初の記事にする心積もりだったのですが、上下巻のため時間がかかり
その間に図書館に行ったところ「琉璃玉の耳輪」と遭遇、二番手となってしまいました。


「海賊モア船長~」「ONE PIECE」「パイレーツ・オブ・カリビアン」等々、
海賊モノを読んだり観たりすると心躍るのはなぜでしょう。
海の荒くれ者のイメージがある反面、海にロマンを求める冒険者のイメージも植え付けられているからでしょう。
では実際の海賊はどうだったのか?
本書では海賊が残した手記、航海日誌、当時残された広範囲の資料を基に
バルバリア、イギリス、北米、アジアなど海賊の源流から終焉までをピックアップしている。
資料を引用し繋ぎ合わせて記述されている部分も多く、淡々としていて物語としての体裁ではないため
退屈に感じてしまう部分もあるが、貴重な海賊の生活ぶりなどが読み取れる。

大抵の海賊は残酷で合理的に行動し、実のところロマンを求めている海賊など皆無に近いことがわかる。
しかし、なかには海賊をやめ、国の議員になって民衆のために活躍する人や爵位を得る人などもいたようだ。
背景にはイギリス、フランス、スペイン、トルコなどヨーロッパ諸国は、国益のために海賊と
持ちつ持たれつの関係だった事がある。
ONE PIECE」などを読むと政府に公式に認められた海賊などが出てくる。
そんなことあるかいな、などと思っていたものだが、実は各国政府は海賊の活動を支援し、
自国の貿易を有利に運ぶよう協力し合っていたわけだ。
海賊ではなくても遭難などが原因でやむなく?海賊行為を行うことなどもあったようだし、
現代ではちょっと考えられない感覚です。
最も酷いと思ったのは、例えばA国の船がB国の海賊に襲われた場合、
襲われたA国の船はB国に属する船を襲って同じ被害額を回収しても構わないという
あり得ない許可を与えていた国もあったようだ。そりゃ国同士の争いが絶える事はないですね。

そんな流れを考えると強大な力と航海技術力をもった海賊が、
イギリス海軍など国家の正式な海軍のもとになったのも頷ける。

また、全てではないが海賊の補償制度というのがあったことに驚きました。
腕一本失ったらいくら(右腕と左腕では金額が違う!)、片目を失ったらいくら、みたいな。
お金や物での補償だけではなく、あるいは奴隷を何人与える、という選択肢もあったようです。
現代(出版当時)の保険との補償金の比較表が掲載されていたが、
あまり変わらないので案外きっちりした補償制度が確立されていたことがわかります。

その他、かの有名なシーザーやドン・キホーテを書いたセルバンテスが海賊の捕虜になって
生きながらえた逸話なども興味深く、海賊を知る資料としては充分楽しめました。
ただ、物語ではないので似たような話が度々出てくるぶん、冗長に感じる部分もあります。