吉祥読本

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マッハの恐怖、続・マッハの恐怖 --柳田邦男

小学生から中学生にかけて、将来就きたいと漠然と考えていた職種がいくつかりましたが、
その中でも飛行機の操縦士には特に惹かれていました。
きっかけは「ゼロ戦」好きだったからなんですが。
パイロットは今でも人気職種なのだろうか。
初期作品を振り返るシリーズ第六弾。初のノンフィクション篇です。


飛行機による事故は不思議なもので、一回大きな事故が起きると立て続けに起きてしまうという
印象があります。
昭和41年という古い話しですが、本書は連続して起きた事故の原因に柳田が疑問に感じたことが出発点。
実に丹念に調査し、構成された、硬派なノンフィクションです。
そしてこれをきっかけに柳田自身、ノンフィクションライターとして歩み始めました。

とにかく、調査の緻密さには驚かされました。
事実を掘り出し、積み重ねることで浮き彫りにされる真実の重さ。
柳田が提示した問題点は多すぎて、果たして全て解決しきれるのだろうかと考えさせられたり、
ナルホドね~、と感嘆させられることの多いこと多いこと。

ジェット機が増えてくるにつけ、プロペラ機時代には考えられないようなことが物理的にも
心理的にも出てくるのは当然のことだと、今となっては考えられる。
自動車で考えればわかる。
普通乗用車に乗っている人が、同じ道でF1カーを運転したらどんなことになるのか?

当時はジェット機という華やかで凄い「道具」が出たことのほうが大事で、
それにより「何が起きるか」ということはあまり着目されていない。

柳田作品にはよく、ヒューマンエラーという言葉が出てきます。
航空会社や飛行機メーカーからすれば一番簡単な事故の処理の仕方が「ヒューマンエラー」でした。
簡単に言えば「操縦ミス」。

これは操縦士ひとりに事故の責任を押し付けて会社やメーカーが責任をとろうとしない、
という意味でもあります。
構造的欠陥や、操縦士の就業状況などを問題とされると困るわけですよね。
莫大な開発費用を回収しなければいけないわけですしね。

勿論、操縦ミスもあるわけですが、柳田が他の作品も含めて一貫して警告するのは
「人間はエラーを起こすものだ、失敗するものなんだ」という視点からセーフティーネットを張れ、
ということです。
それもダブルセーフティー
それらを怠るということはシステム的な問題、運用上の問題がある。ということです。


事故調査の結果、多くの事故の原因は見えない圧力で捻じ曲げられ、
うやむやにされそうになったようです。
しかし、今では安全性の向上は最重要事項となっている(はず・・・)。
そのきっかけになったのは明らかに本書による影響ではないでしょうか。


残念ながら今でもあらゆる分野で「マッハの恐怖」は続いています。
そして運営している人たちが組織的に原因を隠そうとする体質もまだまだ改善されていません。
何度も繰り返される不祥事。多くの犠牲者をいつまで出し続けるのでしょうか。
なぜ反省の上にたって改善していくことが、こんなに困難なのでしょうか。
技術は日進月歩。確かにイタチゴッコになってしまうことはあるでしょう。
しかし、事は人の命に関わることなのだ。。。
保身のために命を犠牲にすることなど、到底許されない。


私自身20年以上前に読んだ古い本ですが、今読んでも、内容は全く古くはないはずです。
安全管理に関わる人たちは、航空業界ではなくても興味の有無に関係なく、
是非とも、本書を読んでほしいと強く、強~く思います。


私にとってノンフィクションという分野の面白さを教えてくれた大切な一冊だと思います。
このデビュー作に受けた影響は、いい意味で大きすぎます。
感謝!!