吉祥読本

読書感想。面白そうな本なら何でも読みたい!

オーデュボンの祈り --伊坂幸太郎

伊坂幸太郎の集大成の感想を書いたあとなので、原点回帰します。
ご存知の通りこれがデビュー作です。


数年前、独立したばかりで仕事に忙殺され、そのくせ金がまわらない時期が続いていた。
本を買う余裕も時間もない。食べるのがやっとだった。
本を読む時間ができると手持ちの本を再読した。
どんどん新しい作家が出ているだろうに、ほとんど情報を持たなかった。
ようやく本を買えるようになり、本屋をゆっくり見て廻ったとき、
あまりに知らない作家ばかりで愕然とした。

そんなとき、伊坂幸太郎の「オーデュボンの祈り」「ラッシュライフ」を同時に買った。
何となく目に入っただけだった。
題名からはどんな物語りか全く予測できなかった。
特に「オーデュボンの祈り」に関しては説明を読むともう、ちんぷんかんぷんだった。

「オーデュボンの祈り」を先に読み始めたが、あまりの架空っぷりに失敗したと思った。
何となく買ったとはいえ、勘が働かなかったなのは悔しかった。

ところが読み進めるうちに、引き込まれていることに気付いた。
ゲームはほとんどやらないが、ゲームのように架空の世界に身をおけばいいだけなのだ。
すっかり頭が固くなっていた。

「未来を予知できる喋るカカシ」、「嘘しか言わない画家」、「殺人を許された男」
・・・・・なんぼのもんじゃい!!

読み方がなんとなくわかってくると、少し戻ってから助走をつけて読み始めた。


慣れなかったせいもあり多少の読みにくさはあったものの、
すごい作家が出てきていたんだなと感じた。
会話の巧みさもあるが、登場人物とそれぞれのストーリーが折り重なって流れ、
それが最後にピタッとはまる心地よさ。
そしてベタベタ感がない、全篇に漂っている優しさ、暖かさ。
正直、今まで味わったことのない読後感だった。うれしいとすら思った。

「こいつの本は読み漁ることになるぞ」

ラッシュライフを読んでいよいよその思いが強くなった。
勿論、本に飢えていたという状況があったことは確かだったが、
その後はもう文庫版を待たずして全て単行本で購入した。
こんな作家は初めてだった。
いつもなら文庫になるのを待ったものだが、伊坂幸太郎に関しては待つ気になれなかった。
全部の作品が手放しでいいとは思っていないが、後悔はしていない。

全ての作品に「オーデュボンの祈り」のDNAが散見できる。
デビュー作の凄さが今更ながらわかる。
今読めば荒削りなところもあるだろうが、気にならない。
全ての作品に共通して感じる。
「本当に良く考えているなあ」と。
それでいて、重くないので多少疲れていてもサクサク読める。

この作家に出会えてよかったと思う。


本の感想ではなく、本との出会いを語ってしまいました(笑)