吉祥読本

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ノラや --内田百閒

村松友視さんの「アブサン物語」の感想で近日中に読むと書いてから随分たってしまいました。



「BOOK」データベースより引用
ふとした縁で家で育てながら、ある日庭の繁みから消えてしまった野良猫のノラ。
ついで居つきながらも病死した迷い猫のクルツ―愛猫さがしに英文広告まで作り、
ノラやお前はどこへ行ってしまったのか」と涙堰きあえず、垂死の猫に毎日来診を乞い、
一喜一憂する老百閒先生の、あわれにもおかしく、情愛と機知とに満たち愉快な連作14篇。



自分ではとびきりの猫好きではない、と思っていた百先生。
しかし、適度の距離を保ってきたはずの「ノラ」が姿を消すと一気に情けないモードになってしまう。
毎晩、遅くまでノラの帰りを待ち、仕事もてにつかずご近所さんに聞こえそうな声で泣き暮らし、新聞広告、チラシなどを作成してまで探し始めるのだ。
ネコ一匹にそこまでやるか?
大げさのようでネコに「やられている」人は案外似たり寄ったりなのかもしれない。

 

しかし百閒先生も案外しっかりしているのか、これらの顛末が連載され、
それをまとめたものが本作なのだ。

 

この連載により全国に百先生のネコ騒動が広まる。
昭和三十年代に書かれたわけだが、この当時のネコの扱いとはどんなものだったのだろう。
多分ノラ猫のほうが圧倒的に多かったに違いない。
今よりもゾンザイに扱われるほうが多かったのではないかと思うのだが
この時代にも家族的に考える人たちも案外いたようだ。
先生の友人たちは先生との関係もあって捜索を手伝うのはまだわかる。
しかし結構連載や広告で知った多くの人たちが励ましの手紙や電話、
猫の情報提供などをしてくれるのには驚いた。

 

ただし、この時代にも匿名ゆえの悪意を発揮している人種は既にいたようだ。。。

 

嘆き悲しむ先生はかわいそうだが、あの強面の先生があたふたしている姿は想像すると可愛らしい。
猫の心配をし、仕草を思い、想像している先生の気持ちは充分に伝わってきた。



うちのネコがあっちの世界に旅立ってから3年半。
完全な家猫だったので百先生のような経験はないのだが、引越しの時に姿を消した事がある。
結局、部屋の中のあり得ない程狭いところに隠れていたのを見つけたときは安堵した。
あの時は顔色を失ったっけ。
ノラやノラや」と、百閒先生の心境と同じだったかも(笑)

 

ただ、天寿を全うしてお別れするのと違い、何の前触れもなく元気なまま姿を消してしまわれると、やはりいつまでも引きずりそうな気がする。

 

顛末は書きませんが、ホンワカする作品でした。