吉祥読本

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バガージマヌパナス --池上永一

「BOOK」データベースより引用
「ワジワジーッ(不愉快だわ)」ガジュマルの樹の下で19歳の綾乃は呟く。
神様のお告げで、ユタ(巫女)になれと命ぜられたのだ。困った彼女は86歳の大親
オージャーガンマーに相談するが…。
あふれる方言、三線の音、沖縄の豊かな伝承を舞台に、儚い物語の幕が上がる。
第6回日本ファンタジーノベル大賞受賞作。

 

題名の意味は沖縄の言葉で「わたしの島のはなし」というそうです。

 

読み始めはかなり戸惑いましたが、途中からかなり面白くなりました。
なぜ最初は戸惑ったかというと、会話のかなりの部分に沖縄の言葉がそのまま使われているからです。
題名も時間がたつとすぐ忘れてしまう(笑)
英語以上に読めないカタカナが次々と繰り出され、思うようなスピードで読むことができませんでした。
のんびり読めよってことかもしれない。
それでも主人公の綾乃(19歳)と、親友のオージャーガンマー(86歳)がどのような生活をしているのか、
どのような性格をしているのかは伝わってくる。
沖縄には行った事がないのでその雰囲気を感じとることはできないが、
自然に囲まれ、自然に生きている二人の生活のうえに広がる青空をイメージすることはできたと思う。

 

このあまりに年齢が離れた二人の関係はとにかく面白い。
孫のような綾乃の無鉄砲で自堕落な行動を叱るどころかむしろ炊きつけ、
一緒に子供のように遊び回るオージャーガンマーの無邪気さがやけに可愛くて愛嬌がある。
そんな二人をまわりの人たちも鬱陶しいと思いつつ結局放し飼い状態にしている。

 

沖縄の人から見た日本(ヤマト)本土への風刺なども見え隠れするが、
都会化していく沖縄の変化の中で我関せずとばかり仕事もろくにせず、
だらだらとおしゃべりで過ごす二人に将来を悲観する様子は見られない。

 

そんな無気力な生活に割り込むように「神様」が綾乃を沖縄独特の信仰である
ユタ(巫女さん)になれと説得のために何度も現れる。
ユタになりたくない綾乃と神様との丁々発止の攻防(笑)が度々繰り返されるのだが
このやりとりは結構ツボに入って、ほのぼのと笑えました。

 

しかし、綾乃がユタとして生きていく決心をしてからの物語は突然雰囲気が変わる。
方言が最小限に抑えられ、カタカナばかりの文章から通常の漢字の多い文章に変化し、
おかげで読み易さは格段にあがる。
このあたりの展開は最初から狙っていたのかもしれない。
人の命や、自分の生き方に思いを馳せるようになる綾乃もぐんぐんと急激に成長する。
決して劇的ではなく、自然に描かれたラストはむしろ色々と伝わってくるものがあった。

 

都会化されていく島のなかで古いものを伝承してきた人と、新たに伝承していく人の姿に、
そして綾乃の成長物語に、なんだか静かに感じ入りました。

 

音や匂いや風を感じながら沖縄でこの本を読めたら、よりよかった作品だと思います。



この作品を読んでる最中に「シャングリ・ラ」(上・下)の文庫本が出たので、立て続けに読書中。
もう少しで読み終わりますが「バガージマヌパナス」とは全然違う雰囲気の物語りですねえ。
長いし(苦笑)