吉祥読本

読書感想。面白そうな本なら何でも読みたい!

夜は短し歩けよ乙女 --森見登美彦

今年の読書始めの作品でしたが、大正解でした。
夜は短し歩けよ乙女」「深海魚たち」 「御都合主義者かく語りき」「魔風邪恋風邪」の4章構成。
次を読みたい気持ちをおさえながら元日から4日まで、1章ずつゆっくり読みました。
おかげで神社で達磨を見かける度に、つい手に取りたくなりました。

 

相変わらずオモチロイ登場人物たちのオンパレード。
「おともだちパンチ」を武器とする天然気味の「黒髪の乙女」と
外堀を埋める作業に没頭する「先輩」を軸にした恋愛小説なのですが、
それ以外にも四畳半神話大系に出てきた師匠こと樋口と、
その友達の羽貫が、いい味を出しています。更には映画サークル「みそぎ」まで出てくるとは
なんと豪華なラインナップ!

 

妄想と現実を行き来する設定は太陽の塔、「四畳半神話大系」に通じるものがありますが、
それらに比べると格段に成長し、洗練されているように思えました。
自分の鼻が慣れてしまったのでしょうか、それまでの匂いたつような濃密な体臭が
少し薄くなったような印象を受けました。(ただしパンツ総番長を除く。違う意味で)
それどころかクライマックスの竜巻の中での先輩のセリフ
「たまたま通りかかったもんだから」
には徹底したストイックさ、格好よさすら覚えたのですが、私がアチラ側に取り込まれているのでしょうか。

 

先輩の行動は過剰なのですが、かつて男子だったオッサンとしてはとても共感できました。
携帯電話など無い時代の男子は目当ての女子の目に留まるべく努力したものです。
気軽に電話番号なんて聞けやしませんでした。合コンなんて言葉もありませんでした。(多分)
勉強であり、スポーツであり、優しさであり、男らしさであり、奇遇を装ってアピールするなり、
外堀を埋めるべく、そりゃあ迂遠な奇遇の立案と妄想は、大なり小なり誰にでも
経験があるのではないでしょうか。私には思い当たるフシがあります。思い切り(笑)
今の時代の安易な出会いなどには見当たらない努力を、笑い飛ばすことなどできないのだ。。。笑ったけど。
(ただし本作ではメールを使うシーンが出てくるので昔の話しではありません。)

 

酒が強く、緋鯉を背負って颯爽と歩く黒髪の乙女は魅力的ですが、一番気になるキャラクターは
羽貫さんでした。
百年の知己のように人々の中へ溶け込み、易々とタダ酒を胃中に収める鯨美人。
風邪で寝込んでいる際にも
玉子酒はね、玉子と砂糖抜きでね」
と布団の中でむぐむぐ言う羽貫さんには「そうだよね」と、親しみを感じてしまうのであります。
でも顔をぺろぺろ舐められるのは嫌です。念のため。
まあそんなこと言っても黒髪の乙女に「玉子酒はね、玉子と砂糖抜きでね」と頼んで
「合点承知でございます」なんて言われた日にゃあ羽貫さんも霞むってもんですが(笑)
スミマセン!いつの間にか妄想入りましたあ。

 

ところで、本作品で一番印象に残った言葉は古本市での少年(古本の神様)のセリフでした。

 

「父上が昔、僕に言ったよ。こうして一冊の本を引き上げると、古本市がまるで大きな城のように
宙に浮かぶだろうと。本はみんなつながっている」

 

自分も本の連鎖に関して思いを馳せることがしばしばあるし、
そんな小さなピラミッドなら浮かんではいないが狭い我が家にもにもある。



迂遠という名の奇遇の連続により本物の奇遇を招き寄せ、
必然と感じさせる神様の御都合主義な結末を書き上げた森見さんには、ただただ拍手を送りたい。
そして慌しくも有意義な正月(森見&酒)を送った私は、とりあえず詭弁踊りでダイエットするのみ。



チルネコさんには申し訳ありませんが、今回だけは使わせてもらいます。

 

なむなむ!