吉祥読本

読書感想。面白そうな本なら何でも読みたい!

チャイルド44(上・下) --トム・ロブ・スミス

今年はじっくり本を読みたい、と言っていましたがさっそく一気読みしちゃいました。
手綱を引いても止まらない感じでした。
これがデビュー作で20代後半の人が書き上げたとは!



「BOOK」データベースより引用
スターリン体制下のソ連。国家保安省の敏腕捜査官レオ・デミドフは、
あるスパイ容疑者の拘束に成功する。
だが、この機に乗じた狡猾な副官の計略にはまり、妻ともども片田舎の民警へと追放される。
そこで発見された惨殺体の状況は、かつて彼が事故と遺族を説得した少年の遺体に酷似していた…。
ソ連に実在した大量殺人犯に着想を得て、世界を震撼させた超新星の鮮烈なデビュー作。



物語りの舞台は旧ソビエト
1933年、飢餓で極限状態の村に住む女性が、飼っていた猫を解き放つ。
そしてこれが凄惨な事件の導火線になる。
舞台は1953年のスターリン体制下のモスクワへ移り、国家保安省捜査官であるレオが登場する。
スターリン体制を維持すべく冷徹な英雄でもあるエリートのレオ。
しかし、彼はある事件をきっかけに思わぬ転落を始める。

 

勤務先の上司や部下、近所の人、面識のない通りすがりの人、そして家族までもが信用できないという
相互監視の環境、生き抜くためには罪のない人間を罪人として告発することをも辞さないという
過酷な環境は、読んでいても息が詰まる。

 

凶悪犯罪は資本主義社会の病気で、理想の国家ソ連に犯罪は存在しない、という論理で多くの人間が囚われ、
殺されていく社会の怖さがヒシヒシと伝わってくる。

 

この作品の肝は旧ソビエトというあまり読んだ事がない時代背景のなかで起きていた色々な社会的悲劇を
「実際に起きた事件をもとに」描いた点にあり、サスペンスドラマだ。
凄惨な殺人者がでてくるが、それよりもこの過酷な環境のほうがよほど醜悪に感じられる。
生き残ることに疲れ、絶望することが死因になってしまうのだ。

 

これらの状況は旧ソ連だったから、と一概には言えない。
戦争のあるところ同じことがどの国でも起こり得る。
今でも同じようなことが世界のいたるところで繰り返されているのではないか?

 

背景は重いかもしれませんが、これらの内容をグイグイと読ませてしまう力はなかなかのもの。
絶望ではなく希望で終わるため読後はほっとします。
目に見えない大きな力に追われる「ゴールデンスランバー」のような要素や、映画「大脱走」「逃亡者」のような
緊迫した逃亡劇要素もありで、リドリー・スコット監督による映画化されるのも頷けます。
ただし、映像化されたものを観たいか?と問われれば躊躇もします。

 

敢えて気になるところを挙げると。。。
執拗なまでに人を追い詰める組織側の人間の心理描写は気味が悪く、うまく書かれていたと思いますが
犯人が凄惨な犯罪を犯すに至る心理描写には物足りなさを感じました。
レベルを求めませんが、もう少し動機に関する記述がほしかったです。

 

ただし、この作品のパワーを弱めるほどの事ではないと思いますし、高い評価を受けるのが頷ける作品でした。
とてもよく考えられた構成には感心させられました。
上下巻ですが、特に冗長さを感じることなく、読みやすかったです。

 

ところで、この作品はミステリーとして評価されていますが、ミステリーなのでしょうか。。。