吉祥読本

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安政五年の大脱走 --五十嵐貴久

「BOOK」データベースより引用
安政五年、井伊直弼に謀られ、南津和野藩士五十一人と、美しく才気溢れる姫・美雪が脱出不可能な
絖神岳山頂に幽閉された。直弼の要求は姫の「心」、与えられた時間は一カ月。
刀を奪われ、逃げ道を塞がれた男達は、密かに穴を掘り始めたが、
極限状態での作業は困難を極める…。恋、友情、誇りが胸を熱くする、痛快!驚愕!感動の娯楽大作。



それにしても器用な作家さんです。「1985年の奇跡」ではヘッポコ野球部の、そして
「2005年のロケットボーイズ」ではオチこぼれ高校生たちの人工衛星作りの青春群像劇を描きあげたかと思うと、
「リカ」では恐怖のズンドコ、いやどん底に叩き落してくれた。
そして本作ではいきなり井伊直弼が権勢を振るう時代の話しである。
未読の作品もテーマが一定ではなく、ジャンルの広さが感じられる。

 

井伊直弼は若かりし頃に恋焦がれた女性「美蝶」の娘で、今は南津和野藩という小藩の姫となった
「美雪」を偶然見かけるや、その権力を利用して南津和野藩士51人と共に絖神岳の山頂に幽閉してしまう。
目的は美雪を側室にするため。一ヶ月という限られた時間の中で脱出ができるのか?
というストーリー展開だが、これは映画「大脱走」の幕末版だと思えばいい。
機転の利く調達係、穴掘り名人の存在など、映画とそっくりである。
違うのは最後の展開と、聡明で行動力のある魅力的な姫、美雪という女性が出てくることぐらいでしょうか。

 

正直なところちょっと都合のいい展開なのだが、多少の事は目を瞑れば楽しめる。
途中、これは伏線なんだろうな、と気付いたのだが、それがどう繋がるのかは予測できなかった。
荒唐無稽と言ってしまえばそれきりなのだが(笑)娯楽作品だと思えば気にならなかった。

 

わかり易い悪者(井伊直弼よりも部下の長野主膳ですね)と、
身分差を越えて一致団結する集団の対比を明快に描き、爽快な気分になれる作品でした。

 

ただ、穴堀りを得意とする黒鍬衆の努力を何とか最後まで生かせなかったかなあ、と思うのですが
きっと「あの結末」ありき、だったから仕方なかったのでしょう。

 

次はどのジャンルの五十嵐作品にしようか思案中です。