吉祥読本

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トリフィド時代 --ジョン・ウィンダム

ジョン・ウィンダムの「海竜めざめる」を読もうかと思っていたのですが、順序としてはまずこちらを読んでおくべきかな、ということで読みました。

 

物語の舞台はイギリス。ある日、大流星群が地球を覆うように通過する。
流星群を目撃した世界中の人たちが視力を失い、パニック状態となる。
少ないながらも流星群を見なかった人たちは難を逃れ、生き残るためのサバイバルが始まる。
更に、植物油を採取するために栽培されていた植物「トリフィド」が人を襲い始める。
このトリフィドは三本足の植物。毒を持った触手をムチのように振るい、人を殴りつけて倒し、食してしまうだが、なんといっても三本足で歩く事が可能なのだ。。。。

 

サブタイトルには「食人植物の恐怖」とあります。
確かに増殖し、腕力?が強く、人間の立てる音に向かって近づいてくる植物たちは
実際に存在すれば怖い存在だと思います。
が、正直言ってあまりトリフィドに関しては怖さを感じませんでした。
人類破滅SFの名作とありますが、牧歌的な印象すらあって、本当に破滅に向かうのか?
と思ってしまうくらい破滅への危機感みたいなものは感じられませんでした。

 

B級映画みたいな作品か?と問われると「違います」と答えます。
何が怖いのか、と問われればスタンダードな答えになってしまうのですが「人間が一番怖い」と答えます。
目が見えなくなった人間たちの行動、目が見える者たちの行動は現在に置き換えても
きっと本作と同じような状況になるような気がします。
誰もが経験したことがない事態に、何が正しい判断なのかは誰にもわからない。
誰も助けに来てくれないと理解したときには、とにかく自分の判断で新しい世界を作るしかないのだ。
そのあたりの各人の葛藤はリアリティがある。
アメリカがいずれ助けに来てくれる」という台詞が出てくるところなど、日本人としては苦笑いしてしまう。
通常ならば目が見える人間は、見えない人よりも圧倒的有利なはずだが例えば目が見えない人に親切に手助けしようとすると、「自分の目」として利用しようと、目の見える人の争奪戦が始まったりする。
車に乗って移動していると、その気配に目の見えない人たちが一斉に押し寄せてくるシーンがリアルで一番怖かった。
これがゾンビならアクセルを踏み込んで突破しても仕方がないよね、と思えますが
目が見えないだけの普通の人間に対してそんな事はできるものではありません。
そんな基本的な良心を持っている人に対して、「所有」しようと群がっていく人々の心理はおぞましい反面、自分だったらどう動くんだろう、と考えさせられます。
色んなグループや人物が出てくるので誰だっけ?と、判りにくい人物もいましたが、
全体的には思っていたよりも読みやすく楽しめる作品でした。

 

星新一さんが訳した「海竜めざめる」は、きっとより一層楽しめそうな気がします。
こういう作品が、どんどん復刻されるのは嬉しい限りです。