吉祥読本

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恋文の技術 --森見登美彦

京都の大学から、遠く離れた実験所に飛ばされた男子大学院生が一人。
無聊を慰めるべく、文通武者修行と称して京都に住むかつての仲間たちに手紙を書きまくる。
手紙のうえで、友人の恋の相談に乗り、妹に説教を垂れ―。
(「BOOK」データベースより引用)

 

昨年の正月、「夜は短し歩けよ乙女」で楽しく過ごせたことに味をしめ、二匹目のドジョウをば狙いました。
「夜は短し~」程のインパクトには欠けましたが、酒で濁った頭には丁度良い湯加減でした。

 

京都から千尋の谷に落とされた(能登半島に行かされただけなんですが)大学院生・守田一郎が
暇つぶしのために手紙を書きまくり、それらの書簡だけで構成されている作品です。
モリミーとしては初の手法ですね。
今までの作品のエッセンスやキーワードが至る所に仕込まれているため、
他の作品を読んでいるとより楽しめることになるが、その分、新鮮味は書簡集という体裁以外は
特に感じられない。だからと言って面白くないわけではありません。

 

文体は軽快でいつもの妄想学生のひねくれたラブリーさが楽しめました。
第11話以外は守田の一方的な書簡で進行するが、自然と相手からどんな返信が来ているか、
うっすらとわかる仕掛けになっている。
丁寧な文章に、いきなり上から目線の文章を割り込ませてみたりするのはツボでした。
時々葉書で送っているのですが、1ページまるまる割いていたりする時もあり、
ってことはかなり細かい字でビッシリと書かないと葉書には書ききれないはず。
そんな守田の姿を想像するだけでラブリーでニヤニヤしてしまいます。

 

特に面白かったのは、最高厄介なお姉様こと大塚緋沙子と守田との不毛な闘いと、
第9話の失敗書簡集ですね。不毛な闘いはくだらないけれど、小さく笑えます。
されど終盤、大塚緋沙子の書簡に出てくる文章はなかなかのもの。
他の作品も含め、モリミーの登場人物の根底に流れているものを言い表しているのではないでしょうか。

 

 「ワタシは誰でもいいからいじめるような人間ではございません。
 ちゃんと上手にやり返してくれる人じゃないと、陰湿になっちゃうから、やりません。」

 

失敗書簡集はあこがれの伊吹さんに送りたいけど送れない手紙とその反省が書かれているが
その悪戦苦闘ぶりが守田の心理状態を写し出していて、かなり楽しめます。
残念ながら恋文を書いたことはありませんが、守田の気持ちはなぜか分かるなあ(笑)

 

うまいなあと感じたのは第11話の大文字山への招待状でしょうか。
森見登美彦と守田薫、谷口誠司と大塚緋沙子の往復書簡、三枝麻里子から間宮少年宛て、
小松崎友也から三枝麻里子宛て、守田一郎から小松崎友也宛て、と言う具合に
唯一、守田一郎以外の書簡が出てきますが、このやりとりはそれまでの守田目線のストーリーを
立体的に浮かび上がらせる仕掛けともなり絶妙だったと思います。

 

「美女と竹林」でちょっと危惧していたのですが、正月にはちょうどよ~く楽しめました。
これでモリミーの出版作品はようやく制覇(多分)してしまったのは惜しい気もしますが、
来年の正月用の作品も出してくれたら嬉しゅうございます。
スキヤキ大宴会&パジャマパーティーに招待してくれたらもっと嬉しいかも(笑)