吉祥読本

読書感想。面白そうな本なら何でも読みたい!

閉じた本 ::ギルバート・アデア

事故で眼球を失った大作家ポールは、世間と隔絶した生活を送っていた。ある日彼は自伝執筆のため、口述筆記の助手として青年ジョンを雇い入れる。執筆は順調に進むが、ささいなきっかけからポールは恐怖を覚え始める。ジョンの言葉を通して知る世界の姿は、果たして真実なのか?何かがおかしい…。彼の正体は?そしてやって来る驚愕の結末。会話と独白のみの異色ミステリ。(「BOOK」データベースより引用)



書店で見かけた表紙、題名、そして手にとって裏表紙に書いてあった「会話と独白のみの異色ミステリ」。
これだけで面白そう!と思って積んでおきました。
「A Closed Book」は作品内で口述される作品の題名でもありますが、題名が決まったときのポールの台詞の通りになっている自分に気付いて苦笑しました。

 

「どこぞの誰かが書店内をぶらついている、するとこのタイトルを冠した一冊の本が目にとまり、思わず開いてみたくなる、だろ?」



事故で眼球を失い、盲目となった作家ポールが、口述筆記の助手としてジョンを雇い、
基本はこの二人だけで物語がすすむ。
最初こそ順調な作業だったが、ポールは徐々にジョンに不信感を覚えていく。
目が見えないため、その不安がどこから来るものなのかはわからない。
しかし、目が見えないことで研ぎ澄まされた感覚が何かを知覚させるのだ。

 

ジョンの言動がおかしい事は読者にもわかってくるが、その目的まではわからない。
だから読み手はほとんどが盲目のポールの気持ちで読み進めることになる。
自分の思い過ごしだと無理やり納得させていたポールは、しかしジョンが嘘をついている証拠を完全に掴んだ時、物語は一気に転換するのだ。
何ともいえない不安感を共有しながらの読書はけっこう楽しめました。
暗闇の中で感じる気配、あやふやな記憶を直接目で確認できないもどかしさは
巧く表現されていたと思います。
登場人物の少なさによってそれぞれの行動や言動に注意力を集中できるため、
臨場感も緊張感も不安感も増す効果があるのかもしれません。

 

一部、ラストにむけての伏線ではないか?と思っていたことが結局そのまま何事もなかったのでただの考えすぎなのかもしれませんが、読後にそういえばあれはなんだったんだろう。。。
と、ちょっと引っかかりました。ま、たいした問題ではないでしょう。

 

ポールの独白(斜体で書かれた)部分の存在も、ああ、そういうことだったのかと
納得いく小道具となっていて、小粒ながら綺麗にまとまった作品でした。