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民間軍事会社の内幕 ::菅原出

イラク戦争の際に登場した「民間軍事会社」は、究極の国家行為である戦争のイメージを大きく変えた。彼らの事業は、要人警護はもちろんのこと、戦闘地域でのロジスティクスから捕虜の尋問、メディア対策、さらには正規軍のカバーに至るまで多岐にわたる。その実態はどうなっているのだろうか。今なお拡大しつづける新ビジネスの全貌を、各企業や米軍関係者への取材をもとに描く。(「BOOK」データベースより引用)



一連の伊藤計劃作品(「虐殺器官」「メタルギア ソリッド ガンズ オブ ザ パトリオット」)を読んだり映画「第9地区」を観たりしたとき、とても気になっていた「軍事の外注」の件だが、丁度その頃にまさしく題名からしてストライクな本が目に入ったので、伊藤作品制覇後に読もうと積んでいました。

 

軍事の外注化に関しては少しは知っていましたが、正直こんな状況になっていたのか!と驚いた。
イギリスやアメリカの特殊部隊などの除隊者たちが中心に会社が設立され、その知識を基にアメリ国防省や紛争が起きている国家からの依頼により兵站の確保、要人の警護、輸送物資や輸送手段の提供など様々な仕事が外注されている。

 

これらのビジネスはイラク戦争で急激に拡大したが、1931年に設立された会社があるので歴史は案外あるらしい。イラクでなぜ拡大したか。いくつか理由はあるが、特に印象的な理由としては、
・紛争の拡大と分散による問題増加にもかかわらず、軍事費縮小による人員等の削減が進んだこと。
アメリカ政府といえども紛争内容の複雑化(民族対立など)により現場の軍人の判断や軍上層部の判断に 時間がかかるため、グレーゾ-ンで問題に対処するには民間委託のほうが都合がいいこと。
 (映画第9地区でエイリアンと交渉していた民間会社が武装し、戦闘をも辞さないシーンを観た人なら理解しやすいと思います。対象はエイリアンだったけどね)
・民間会社のほうが高給なため、優秀な軍人が次々と退役し、民間に流出している。
などなどである。

 

イラクではアメリカ軍の手が回らないため、アメリカの要人ですら警護を民間会社に任せたりしている。
最も驚いたのは急速に広がる対テロ戦闘に不慣れな軍人たちに戦闘方法などを教習している民間会社があること。優秀な人材が流出し、流出した人たちがアメリカ軍を指導するという状況になっているのだ。
その費用が1企業にたいして数千億単位で動いている事を考えても市場の大きさが想像できるだろう。

 

民間会社では人材確保のために色々な国の混合部隊である事が多く、最高機密の流出、
人材のモラルのレベル低下も現実に起きている。
経済力が弱い国からの出稼ぎ軍人をその場その場でかき集めている状態で治安が守られるとは思えない。
かつての米ソ冷戦のような単純な図式が消え去った今、グレーゾンでの対応を迫られる事は増える一方だ。
それらをカバーするためのいたちごっこは延々と続きそうです。



伊藤計劃の作品では、日本が軍事民間会社に依頼してテロと戦う事態が生じたと書かれていたと思うが決して遠い未来の話ではないことがわかる。
今や新たなる冷戦が始まろうとしている気配を感じる。
存在が曖昧で、安全な場所でしか活動できない自衛隊を持つ日本がアメリカ経由で民間軍事会社と契約することは充分あり得ると思う。事実、イラク復興支援金もこれらの会社に流れているらしい。
安全が保証されない場所にはどのような事業であれ警護が必要なので仕方が無いのかもしれないが、事実は知っておきたい。

 

これから国家レベルで軍縮が進む一方、ますます民間軍事会社の需要が高まる事は否定できないでしょう。
必要な時に必要な人員を。。。派遣業はどの分野でも裾野を広げているのですね。
この後の世界が伊藤計劃の描く世界のようにならないと良いのですが、残念ながら、
確実にその世界に近づいているような気がしてなりません。