吉祥読本

読書感想。面白そうな本なら何でも読みたい!

なぜ君は絶望と闘えたのか 本村洋の3300日 ::門田隆将

1999年、山口県光市で、23歳の主婦と生後11カ月の乳児が惨殺された。犯人は少年法に守られた18歳。
一人残された夫である本村洋は、妻子の名誉のため、正義のため、絶望の淵から立ち上がって司法の壁に挑む。そして、彼の周囲には、孤高の闘いを支える人々がいた。その果てに彼が手にしたものとは何だったのか。
9年に及ぶ綿密な取材が明らかにする一人の青年の苦闘の軌跡。(「BOOK」データベースより引用)



以前より読もうと思っていたのですが文庫本発売を機にようやく読みました。
この事件に関しては多くの人が記憶していることと思いますが、発生時から何かにつけ注目してきました。
事件の異常性は勿論の事、何よりも少年法に守られた犯人の裁判の行方、また法律を司る人たちの言動や行動、矛盾だらけの日本の法律の問題などニュースを見る度に疑問を感じたり憤慨したりしたものです。

 

裁判の経緯に関してはある程度知っていたとは言え、本書を読むとやはり知らなかった事実が幾つもありました。
何よりも本村さんの怒りや悲しみが痛いほど伝わってきて何度も込み上げてくるものがありました。

 

この事件だけではなく、日々流れてくるニュースでよく疑問に思うのは、裁判の争点がずれているように感じてしまう事。
弁護士は「顧客の利益」のためなら、例え被害者家族を貶めてでもどんなことでもやるのではないか?
そこが争点ではないはずだ、という裁判の展開を度々感じる事がある、ということなんですが、本村さんの裁判も死刑制度の反対を唱える弁護士たちに利用されているのではないか、と感じていました。
本書で何となく感じていた疑問はそのまま現実だったことを知り、怒りを覚えました。
また、犯人のほうが被害者よりも守られているのはなぜか、という怒りも常々もっていただけにこの国の制度はやはりおかしいと思い知りました。
永山基準」のような「量刑相場」などは以前から納得できないことのひとつです。
過去の裁判結果と比較してそこから単純に量刑を導き出すのなら裁判官なんて必要が無く、コンピュータに判断させればいいとさえ思います。
裁判官は一人の人間としても判断してこそ、存在意義があるのではないでしょうか。
勿論それは弁護士にも言えることです。

 

多くの壁が立ちはだかるなか、会社の上司、他の事件の被害者家族、弁護士、検察の方々が自分のことのように見守り、共に戦う姿には感動します。
徐々に道が開かれ、多くの人が動き、政治が動き、法律が改正されていく過程は気が遠くなるような道のりですが、ただどこにでもいる若者だった本村さんが困難を乗り越えて成長していく姿には、ただただ感動するのみです。

 

死刑制度の良し悪しは判断できません。
しかし、裁判員制度導入により(制度自体には納得がいっていませんが)突然法律に直接向き合うことが有りえることを考えると、平素より自分のことと捉えて考える必要があると思います。

 

読むのが辛い部分はいくつもありますが、目を背けず多くの人に読んでほしいと思います。
本村さんとその周りで奔走した方々に、ささやかながら敬意を捧げます。