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こころの王国 -菊池寛と文藝春秋の誕生 ::猪瀬直樹

菊池寛先生の秘書になった「わたし」。流行のモガ・ファッションで社長室に行くと、
先生はいつも帯をずり落としそうにしてます。
創刊された「モダン日本」編集部では、朝鮮から来た美青年・馬海松さんが、またわたしをからかうの―。昭和初年、日本の社会が大変貌をとげる中で、菊池が唱えた「王国」とは何だったのか。(「BOOK」データベースより引用)

 

概要の引用を読んでいただくとわかると思いますが、硬質なノンフィクション作家らしからぬ女性の語る菊池寛、という体裁をとっています。
この文体が今までの猪瀬さんの文体とはかけ離れているのでちょっとまどろっこしい。

 

菊池寛はジャーナリストを起点に、作家となり、文藝春秋の創刊、芥川賞直木賞を創立した人物であり、大映などの社長業までこなすという経歴を考えるとかなりアクティブな印象である。
その菊池寛とは実際はどんな人物だったのかを秘書だった女性が振り返る。
ちゃんとモデルとなる女性がいます。

 

内容としては興味深いのですが、個人的に文体に最後まで馴染めませんでした。
また、菊池寛の内面をある意味描いていることは理解できますが、語られる世界が狭すぎる気がします。
朝鮮半島から来た男を含めた三角関係めいた話がどうも気になってしまいまして。。。

 

その中で最も興味を引かれたのは菊池寛夏目漱石の関係です。
夏目漱石を嫌っていたらしく、夏目の弟子の芥川龍之介久米正雄とは親交があるものの駆け出しの頃に作品を批判され、風貌をからかわれたことがそもそものキッカケだったがその後の行き違いから感情的にもつれてしまったようだ。
自分の風貌にコンプレックスを持っていた菊地は不器用で経歴とは裏腹で社交性に
優れていなかったようなので夏目の態度に必要以上に菊地が反応してしまったのかもしれません。

 

のちに菊池寛は「心の王国」というタイトルをつけた短編集を発表しました。
本書では夏目漱石の「こころ」を意識したのではないか、と仮説を立てています。
そのあたりの話は、むしろ巻末にある井上ひさしとの対談や久世光彦との対談が面白く、理解がしやすかったです。
夏目漱石の「こころ」は学生の頃に読んだものの、あまり面白かったという印象はありません。
ですがこの作品を読んで今なら理解できるのではないか、そしてこの作品を仕上げた
猪瀬さんの仮説をも多少は理解できるのではないか、と思いました。
菊池寛の作品自体もほとんど読んでいないので、いくつか読んでみないとです。
う~ん、心の王国を理解するのは遠い道のりになりそうです。