吉祥読本

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アメリカの夜 ::阿部和重

今回読むまで勘違いしていたのですが、阿部さんは80年代デビューだとずっと思っていました。
90年代だったんですね。
騒がれたのを覚えていてずっと気にしながらも読まずに来た作家です。
当時蓮實重彦柄谷行人が褒めてたらしいし、数年前に源ちゃんが評価していた文章を読んでやっぱ読もうと積んでからいくつ年を越した事か。。


描かれている主人公と同じようなエキセントリックな行動こそないけれど、彼の気持ちがよくわかる。
この作品で描かれる人物たちのような連中は周りに何人もいた。
そのため、読んでいて気恥ずかしいやらイライラするやら。
自分の若い頃のあまり触れて欲しくない部分をコチョコチョとくすぐられているかのような、いや、痛々しさに何度も襲われたというか(笑)

 

映像学校を卒業してもやることがなくアルバイト生活している主人公の持つ閉塞感や
自分は他の人間とは違うんだと思い込んでいる根拠なき自負心。
自堕落な日々を送っているにもかかわらずいつか成功してやるという気負いと現実のギャップ。
虚構と現実のなかで皮肉と本音のスパイラルを往来している青春小説とでも言えばいいのか。

 

本作の手法は最初こそまどろっこしいし面倒くさいが、途中から著者の仕掛けに気付くと気にならなくなる。
意味があろうがなかろうが物語は加速している。。ように見える(笑)



アメリカの夜」とはフランソワ・トリュフォー監督のフランス映画。
昔の映画を観ていると、昼なのに光を遮断して夜のシーンとして撮影してるシーンとかがあった。
ハリウッドでよく使われたそんな擬似夜景のことを「アメリカの夜」と言ったらしい。
題名と照らし合わせると作者が描こうとしたものが浮かび上がってくる。

 

デビュー作らしい気負いも感じられるけれど、もう少し読んでみようと思う作家さんである。
まあ、すでに何冊か積んでるんで(笑)ゆっくりと着々と。