吉祥読本

読書感想。面白そうな本なら何でも読みたい!

蝶 ::皆川博子

インパール戦線から帰還した男はひそかに持ち帰った拳銃で妻と情夫を撃つ。出所後、小豆相場で成功し、氷に鎖された海にはほど近い“司祭館”に住みついた男の生活に、映画のロケ隊が闖入してきた…。
現代最高の幻視者が紡ぎぎ出す瞠目の短篇世界。(「BOOK」データベースより引用)

 

「空の色さえ」「蝶」「艀(はしけ)」「想ひ出すなよ」「妙(たえ)に清らの」
「竜騎兵(ドラゴネール)は近づけリ」「幻燈」「遺し文」の8編

 

ああ、もうもっと早く出会いたかった!
この濃密な短編たちの世界観を、なんと表現すれば良いのかボキャを持たない自分の能力が恨めしい。

 

全ての作品が誰かしらの詩を引用し、それを物語りに見事に融合させてしまっている。
無駄な文章がなく、それでいて行間から溢れてくる濃密な世界がしっかり包み込んでくれる。
詩はよくわからないが、皆川さんの文章と共に美しい日本語であることぐらいは理解できる。

 

「空の色さえ」などは最初に出てきたこともあってか、一節が頭から離れない。

 

 空の色さえ陽気です。
 時は楽しい五月です。

 

この2行を書いただけで、肌が粟立ちます。
実はそれぞれの短編を読み終えるたび、肌が粟立ちました。
読後数日経っているにもかかわらず、いまだ余韻が残っています。
ラスト数行で一気に異世界に引っ張られる感覚に翻弄され、驚愕するたび静かな冷たさを感じました。

 

これに似た感覚は津原泰水さんの「綺譚集」でもありましたが、一貫した妖しさと美しさには圧倒されっぱなしです。

 

子供の頃にはまだ戦後を感じさせる影が残っていたものだが、そのころ感じた身近な闇の怖さを思い出す。
妖しく、哀しく、美しさを伴う狂気に魅せられる。
全ての作品でゾクゾクするなんて、はじめての経験かもしれない。
今年の10冊に確定です。