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越境者 松田優作 ::松田美智子

松田優作が亡くなって、もう20年以上経っているのかと思うと時が経つのは早いものです。
本書は松田優作の最初の妻であり、ノンフィクションライターでもある松田美智子さんが書いた評伝であり、妻しか知らない松田優作が語られている。

 

松田優作の活躍に関しては大抵の人が知っているでしょう。ですが、実は知らないことばかりでした。
例えば「太陽にほえろ」をはじめとする初期作品のアフロヘアーが、この松田美智子さんの手で作られていた事。
自分の血筋を隠し、悩んでいたこと。
死を目前に新興宗教もどきの人間を頼っていた事。
華々しい世界の裏側で起きていた真実は読んでいて痛々しかった。

 

影で支えていた松田美智子は決して真実をデフォルメすることなく、かなり冷静な目線で本書を書き上げている。
しかし、所々に愛情が感じられる逸話により「共犯者」として生きてきたことがよくわかる。
裏切られたにもかかわらず。

 

松田優作の友人たちが語る松田優作の姿も興味深い。
水谷豊、桃井かおり村川透らが語る交友や仕事への思いなどはファンであればこれだけで読む価値があるでしょう。

 

抑えた文章で通してきた松田美智子が感情的になったと感じられるのが終盤の新興宗教の男、それから松田優作が頼った医者へ向けられた思いだ。
必要以上にページ数を割いているように思ったが、むしろそこに人間らしさを感じた。


ファン心理としてできるだけ自分と共通点を見つけたい気持ちはわかっていただけるでしょうか。
優作と美智子が若い頃に住んでいた豪徳寺に自分も住んでいたこと、京王プラザのバーの常連だったらしいが、同じ店に年に一回通っていること、優作が通っていた病院が自分の家から徒歩圏にあり、友達の見舞いで何度か行ったことがあること、これだけで身近に感じてしまいました。
ちなみにその昔、バイト先で探偵物語の撮影が行われ、「あの恰好」をした松田優作と出会ったことがあるのは今でもちょっとした自慢だ。
すれ違いざま、にらまれてびびったが、今考えてみれば仕事にのめりこんでいた松田優作が現場で険しい顔をしていたのは当然だったのだろう。今でもあの顔の記憶は薄れることはない。
今も生きていたら、あのアクの強い俳優がどのような演技をしていたのだろうか。
観てみたかった。。。