吉祥読本

読書感想。面白そうな本なら何でも読みたい!

古書の来歴 --ジェラルディン・ブルックス

100年ものあいだ行方が知れなかった「サラエボ・ハガダー」が発見された----
連絡を受けた古書鑑定家のハンナは、すぐさまサラエボに向かった。
鑑定を行ったハンナは、羊皮紙のあいだに蝶の羽の欠片が挟まっていることに気づく。
それを皮切りに、ハガダーは封印していた歴史をひも解きはじめ・・・・。
異端審問、焚書、迫害、紛争――
運命に翻弄されながらも激動の歴史を生き抜いた1冊の美しい稀覯本と、それにまつわる人々を描いた歴史ミステリ。 (本書より抜粋)

 

昨年末、題名に惹かれ、どうにも気になって今年のはじめに入手していた本です。
個人的には、主人公のハンナのキャラにちょっと抵抗があったりラストの手に汗握る?シーンはもう少し抑え目でもよかった気がするが、トータルではとても楽しめました。

 

1996年、サラエボで発見された「ハガダー」の鑑定依頼を受けたハンナは、留め金の無くなっているハガターに蝶の羽や血が混ざったワインの染み、白い毛、塩の結晶などを検出した。
ハガターに翻弄されるハンナとその周辺の人々の1996年から2002年までの話と、
数奇な運命の中で現代に残されたハガターの歴史を遡る話が交互に展開される。

 

鑑定にまつわる話や人間関係の現代話もいいのだが、なんと言っても500年前まで遡って語られる本の歴史とその本の存在した時代背景などの物語に力があって面白かった。
ハガターとはユダヤ教の写本のことなので宗教、それに伴う迫害や紛争の話が中心になる。
遡るたびに違う人の手を経て持ち主の運命と共に翻弄されていく本が生き残る様は奇跡であり劇的だ。
一つ一つの話はそれぞれ別物だが、最終的にはきちんと無理なく繋がっていく。
近頃時間的制約が多くて数日に分けて読んだが、結果、かえってじっくり読めて堪能できた。
悲劇的な話が多いのに、どれもが一筋の仄かな明かりを見せてくれるのだ。

 

ところでハンナはあくまでこの本に残された痕跡を解析し、想像するだけで決して真実を知るわけではない。
読者だけがこの本に起きた事実を知ることになるわけだ。こんな手法も面白い。
おかげでラストにハンナがハガターに記されたメッセージをみつけ、過去と繋がった瞬間にはジーンとした。
勿論その事実も作者の手による創作なのだが、この「サラエボ・ハガダー」は実在するものなので作者の取材力によって描かれる時代背景はリアルであり、ノンフィクションのような迫力をも感じる事ができる。
人々の様々な思いが詰まった本を現実に手にすると、きっと目に見えない重みを感じるんだろうなあ。

 

ちなみに英文のwikiですが、こんな本のようです。
http://en.wikipedia.org/wiki/Sarajevo_Haggadah



読み終わると本書の最初に記されているハインリッヒ・ハイネの言葉が、ズシンとくる。

 

「書物が焼かれるところでは最後には人も焼かれる」

 

そのとおりだと思う。