吉祥読本

読書感想。面白そうな本なら何でも読みたい!

琥珀捕り --キアラン・カーソン

「BOOK」データベースより引用
ローマの詩人オウィディウスが描いたギリシアローマ神話世界の奇譚『変身物語』、ケルト装飾写本の永久機関めいた文様の迷宮、中世キリスト教聖人伝、アイルランドの民話、フェルメールの絵の読解とその贋作者の運命、顕微鏡や望遠鏡などの光学器械と17世紀オランダの黄金時代をめぐるさまざまの蘊蓄、あるいは普遍言語や遠隔伝達、潜水艦や不眠症をめぐる歴代の奇人たちの夢想と現実―。数々のエピソードを語り直し、少しずらしてはぎあわせていく、ストーリーのサンプリング。伝統的なほら話の手法が生きる、あまりにもモダンな物語。


数年間積んであった本作をGWを利用してようやく読みました。
GWを利用するといっても26章(アルファベット順の題名)を1日1章とか2章、調子が良くても3章、そして全く読まない日もあったので約2週間かかりましたが、解説にもあるように一日一話のペースでも良かったかもしれません。

本書の感想というのは非常に難しいのですが、多くの書物を出典としていることは巻末を見ずしてもわかり、驚くべき薀蓄とともに紡がれるストーリーには圧倒される。(巻末には数ページにわたり出典リストがあり、それにも圧倒されます)
ストーリーは巧妙な「しり取り」で繋がってはいるが内容的に繋がっているわけでもなく、(いや繋がっているんですが・・・)複数の物語りが散りばめられ、時に繋がり、時に飛躍し、そして巧妙にネストしている。
そしてストーリのなかに組み込まれた琥珀にまつわる話しが意外なところで別のストーリーとの接点になりアクセントになる。

 

ギリシア神話フェルメールの絵画とその贋作者、潜水艦やジュール・ヴェルヌの「海底二万里」、冒険王ジャックの語る奇譚の数々、アイルランドの民話、ローマ・ギリシア神話等、多岐に渡る話しはそれぞれが興味深く面白くまた薀蓄の塊である。薀蓄の塊とはいえ、嫌味は無く読みやすい。
ただし、理解できない話しもそれなりにある。全てを理解する力は将来に渡って無い、という強い自信があるのだが(涙)、やけに刺激を与えてくれる作品だ。
最も印象的で特に引き込まれたのはフェルメールの絵に関する解析である。
フェルメールの作品集などが傍らにあればどんなにこの作品をより深く楽しめたであろうか。ついガマンができず読書終盤の頃、フェルメールの作品集を探しました。できるだけ安く、できるだけ作品点数が掲載されている都合のいい本(笑)があればと本屋さんをフラフラさまよっていたら、本書でも語られた「フェルメールの贋作を描いたファン・メーヘレン」について書かれた本を発見してしまい、うっかり購入。こんなところで別の本に繋がる扉があるとは嬉しい誤算。肝心のフェルメールの作品集を入手するのを忘れて帰ってきてしまいましたが・・・(その後入手しました)
ジャンル分けができない作品であり、そして理解できないところがあるにもかかわらず面白いと思える珍しい作品ですが、「カモノハシの文学」と表現される本書の締め方はムフフと納得。(でも物語が終結しているわけではありません)
物語に浸りたいひとにはお奨めできます。

 

本書の解説にはもうひとつ気になる事が書かれていた。
ジョイスの「フィネガンズ・ウェイク」との関係が指摘されていたことだ。
こんなところにもジョイスへの扉があるとは・・・。なかなか重い扉なんだよなあ。
蛇足ですが、この作品を読んでいたときに、ふと、古川日出男の「アラビアの夜の種族」を思い浮かべたのですが、古川さんもこれ、読んでるような気がしました。「物語を紡ぐ」というのが共通項かな。
あ、キアラン・カーソンの「シャムロック・ティー」も入手したので、そちらも俄然楽しみです!