吉祥読本

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秋の牢獄 ::恒川光太郎

近所の紅葉も綺麗になってきたので、読むには丁度良い頃合です。
「秋の牢獄」 「神家没落」 「幻は夜に成長する」の3篇。

 

恒川さんの作品は三作目ですが、「幻は夜に成長する」がちょっと今までと違う印象でした。
安定した独特の世界観を持っている作家さんだと思います。

 

「秋の牢獄」は同じ一日を繰り返し、そこから脱出できない人々の話し。
ラストは結局どうなるのか?と思いながらもスッキリした終わり方をしたと思う。
無為に過ごしている一日を反省しつつ、いつもいい一日だったと思いたいものだ。
北風伯爵の存在が気になります。一体何者?

 

「神家没落」は古い家に閉じ込められ、出れなくなるどころか家ごと日本全国を転々とする話し。
淡々とした調子から徐々にエキサイティングな展開になってきます。
閉じ込められた世界も悪くないなと思う主人公の行動に、ちょっと理解できたりするのは現実逃避したいのかも?(笑)
自由って結局失ってみないとわからないものなんだよなあ。。

 

「幻は夜に成長する」は新興宗教が絡む話ですがあまり気持ちのいい内容ではありません。
人間の持つおぞましさを見せ付けられ、それ自体が怖い。
大いなる幻想の描写は想像力を掻き立ててくれます。
最終的に成長した幻は、どんな姿になってしまうのか。気になる終わり方だ。

 

作品の雰囲気は良く、現実をすっと忘れさせてくれる世界観の表現がとても巧くて好きです。
時間や身近にある異世界にストンと閉じ込められる展開が多いですね。
ただし、本作は「夜市」とか「風の古道」などに比べると全体的にあっさりとしていて物足りないと思うのは贅沢なことでしょうか。