吉祥読本

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空白の五マイル /角幡唯介

副題::チベット、世界最大のツアンポー峡谷に挑む

 

開高健ノンフィクション賞、大宅壮一ノンフィクション賞のダブル受賞作品です。

著者は早稲田大学探検部OB。すなわち高野秀行さんの後輩です。

 

大学卒業後に朝日新聞で5年間の記者生活を経ているが、大学在学中と朝日新聞退社後の二度にわたる

世界最大規模のチベット、ツアンポー峡谷へのチャレンジが描かれる。

新聞記者だったこともあり、高野さんに比べると硬派な印象。

むしろノンフィクション作家としては王道か(高野さんごめんなさい!)

 

でもでもツアンポー渓谷にあるといわれる幻の大滝を発見することを人設計の一部とし、

新聞、雑誌、テレビに取り上げられ、違いがわかる男としてコーヒーのテレビCMにでることを

夢想しているあたり、高野さんとの共通点を感じたりもする(笑)

 

 

  「人跡未踏のジャングルを切り開き、激流を渡り、険しい岩壁を乗り越える・・・・

   19世紀のイギリス人のような古典的な地理的探検に憧れていた。」

 

こんな大時代的な冒険を単独で行うわけだが、決して遊びではなく、

本当に命懸けの冒険であることがわかる。

興味のない人にとっては、なんて無謀な行為なのだろうと理解に苦しむかもしれない。

しかし、彼の挑戦に対して他人が口を挟むことはできないな、と思いました。

ひたすら目的地を目指す男がいて、その経緯を読むだけで、一切の感情を挿む気にはなれません。

ましてや、何故冒険するの?という問いには意味がないし、暢気にロマンだなあ、

なんて気軽に言えない。

 

  「冒険は生きることの意味をささやきかける。だがささやくだけだ。答えまでは教えてくれない。」

 

  「命の危険があるからこそ冒険には意味があるし、すべてを剥き出しにすると冒険には

  危険との対峙という要素しか残らない。

  冒険者は成功がなかば約束された行為には食指を動かされない。

  不確定要素の強い場所を選び、飛び込み、最終的な責任を受け入れ、

  代償は命をもって償わなければならない。」

 

秘境を見たければグーグルアースがあればいいじゃないか、なんてことはない。

その場に行った者にしか見ることが許されない場所が、いつまでもあってほしいと思う。

 

 

角幡さんの冒険に立ちはだかる難所として度々でてくるツアンポー川で、

かつて同じく早稲田のカヌー部の二人が川くだりにチャレンジしていた話に一章さかれている。

只野靖氏と、その時に命を失った武井義隆氏のチャレンジに関しては、

別の作品にしてもいいくらいだった。

若きカヌーイストたちも、角幡さんも、ただただ凄い男たちだ。