吉祥読本

読書感想。面白そうな本なら何でも読みたい!

三陸海岸大津波 ::吉村昭

勿論、今回の東日本大震災をきっかけに読んだ作品です。
明治29年昭和8年地震によって三陸海岸で起きた大津波と、昭和35年のチリ沖大地震で起きた
津波、都合3回の大津波で何が起きていたかを描いている。
吉村氏らしい記録に徹する姿勢が、よりリアルさを引き出している。

 

津波で壊滅的な被害を受け、生き残った人たちの言葉、特に子供たちの言葉は
短いながらも鳥肌が立ってしまう。
どの作文や取材の言葉を読んでも情景が目に浮かぶくらい力がある。読んでいてやりきれなくなる。

 

井戸の水が濁ったり、水位が低くなったり、そして記録的な豊漁、そんな前兆が何を意味するのか
知っていれば、地震が来た時に高台に逃げていれば、、、その場にいない人間はなんとでも言える。
チリ地震気象庁が大津波を警告していれば多くの人命が救われたのに、、、
知識の無さ、地球の裏側の地震が日本に到達するという想像力の不足、
過去のデータを生かせなかったことを誰かのせいに押し付けることはできない。

 

時に自然は人間の想像力をはるかに越える力を持っている。
高さ50メートルの高台にあった家にまで水が押し寄せてくるエネルギーに対抗する術などほとんど無い。
かといって海を生活の場としている、海を目の前に生活している人たちは、
決して手をこまねいていたわけではない。

 

実際に、過去の津波に対処するための田老町の堤防は外観を損なってまで張り巡らせたにもかかわらず、
このたびの大震災でいとも簡単に乗り越えられてしまった。

 

本書でほとんどの地震津波を知っている地元の人が語った言葉が、今回の震災の前では空しい。
この地元の人も、そして吉村氏もこの大震災を目の当たりにしたらどう思っただろう。

 

 「津波は、時世が変わってもなくならない、必ず今後も襲ってくる。
  しかし、今の人たちは色々な方法で十分警戒しているから、死ぬ人はめったにないと思う」

 

本書に描かれた悲劇を、今回の大震災で目の当たりにした方々が大勢いるんだと思うと、
あまりにも生々しく、あまりにも哀しい。
せめて後世の人たちに同じようなことが起きないことを祈りたい。
そして伝えてほしい。