文庫オリジナルの短編集で6編収められています。
最近は銀行メインの話からやんわりと別業種の話に移行つつある池井戸さんですが
これは2005年から「オール読物」に掲載された作品群であり、ほとんどが銀行もの。
ただし、今までの長編作品には、これら短編群のエッセンスが含まれていると考えてもよいでしょう。
銀行と中小企業の話が多いだけに、融資がらみの内容がつきまとう。
それ故、身につまされるような、なんとも切なく苦味の効いた展開ばかり。
いつもの爽快さはあまりなく、物足りなさも感じるのは事実だが、
人生の悲喜こもごもの一部分を的確に切り取る力量は感じる。
最も印象的な作品は「芥のごとく」。女性経営者と新人担当者とのやりとりは
最終的にハラハラさせながらも明るい展開で終わるのかと思いきや見事に期待を裏切られる。
本来はこんな事例のほうが多いのかもしれない。けれど虚しい。
「かばん屋の相続」は実話を基に書かれているが、丸く収まっていて池井戸さんらしい。
ずいぶん前に争う前の店に訪れたことがあるが小さい店舗に人がいっぱい溢れていたっけ。
雰囲気のある店だっただけにその後のドロドロはちょっと想像できなかった。
今はようやく落ち着いたようですが、落ち着いた直後にこの作品集が出版されたのは
何か関係性があるのかと勘繰ってしまうのは、ただの野次馬根性です(笑)
これらの作品群の中で、というか池井戸作品としては異色だったのが「妻の元カレ」。
銀行員の主人公の妻が以前付き合っていた男からの新会社設立の案内状を
隠し持っていた事から始まる疑心暗鬼が描かれている。
う~ん男としては後味が悪いなあ(苦笑)
もっと手の打ち方があるだろうとか、はっきり言ってしまえって思うけど、
そんな簡単にはいかないんだろうなあと思ってみたり。
全体的には物足りないが、ささっと池井戸作品を味わえる。
あまりリアリティがありすぎてどんよりするよりは、やっぱり短編でも爽やか路線の
作品を読みたいです。
作品リスト
「十年目のクリスマス」 「セールストーク」 「手形の行方」
「芥のごとく」 「妻の元カレ」 「かばん屋の相続」