吉祥読本

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金色の獣、彼方に向かう /恒川光太郎

「異神千夜」「風天孔参り」「森の神、夢に還る」「金色の獣、彼方に向かう」の4編構成です。

 

「金色の獣」や「樹海」など共通点が見受けられるが、特に説明は無い。
それぞれ明確な繋がりはないが、元寇の頃の物語りなので鎌倉時代から現代を舞台としている話まで、
4つの物語りは底流で繋がっているのでしょう。
あくまで長い歴史の中に埋もれながら続いている異世界を取り出したにすぎないのかもしれない。

 

気付かぬうちに見えざるものになってしまったり、目に見えないものがふと眼前に現れたりふっと異世界に迷い込む恒川ワールドは健在だが、感覚的には行間を読ませる割り合いが増え読者に多くを委ねている気がする。よって読後感は読者によってかなり違いが出そう。

 

最も好きな作品は「異神千夜」。
人里離れ、一人草庵に住む僧侶のもとに男が訪れ、妖怪変化のようなものを見なかったかと問いかける。
話し相手を求める僧侶に、男は語り始める。

 

対馬に住む少年「仁風」は、南宋の商人と出会い、養子となり、日本、高麗、宋の三国を巡るうちに蒙古軍に捕らえられてしまう。
蒙古が日本に攻め入る前に、情報収集のため日本に潜入する「旅楽隊」に組み入れられ
生きながらえる展開が、以前読んだ指方恭一郎さんの「銭の弾もて秀吉を撃て」にかなり似ていた。
これに恒川さんのテイストが加わるとは何と贅沢な!と言いたくなるくらい好きな雰囲気の二重奏となり、グイグイ読み進むことができた。急に緊張感が漂うラストの締め方も好きです。

 

それ以外の作品は既存作品と結構似ていた設定も見受けられ、新鮮さには少し欠けていたかな。
しかしどの物語も世界観が安定していて、安心して読め、なおかつ物語りにあっという間に引き込んでくれた。
読み終わって少し時間が経ってくると「金色の獣、彼方に向かう」も面白かったなあと
ジワジワ思ってきています。

 

全体的に良い意味でモヤモヤする感じが漂いますが、長い夜のお伴にはうってつけかもしれません。