吉祥読本

読書感想。面白そうな本なら何でも読みたい!

ゲルニカ1984年 --栗本薫

栗本薫の作品はずいぶん前に数冊読んだけど、なぜかSFは一冊も読んでいない。
この作品はいったいどんな分野に振り分けていいものか難しいが、
読んだ後になんともいえない気分になったことを覚えている。

表面的には平和な日本が実は世界大戦の只中にいて、誰もが気付かないフリをしているだけなのでは?
という、不安感に襲われはじめる主人公。
妄想なのか現実なのかが曖昧で、どちらにも取れるように作者が意図していたのかもわからない。
だけど、今でもすごく心のどこかに引っかかっていて、未だに本棚のいい位置に置いてある。
そのくせずいぶん前に一回読み返した記憶しかない。
今回パラパラとめくってみた。

現実の世界を考えれば世界中のどこかで戦争は続いているわけで、日本も間接的には参加している。
戦争はゲームの中にあり、現実感が伴っていない多くの日本人(自分も含めて)を考えると、
むしろ主人公のほうがまともなのではないだろうかとも思えてくる。

本作にも出てくる村上龍の「海の向こうで戦争が始まる」という題名が主人公の幻想?を
加速させるひとつの道具になっているが、栗本薫自身が「海の向こうで戦争が始まる」という
言葉を元に日本人に対する危機感のなさを警告しているのかもしれない。
結局のところ本作には救いがないので不安感が募ったままなのですが、
時間を作って精読し直したい一冊です。

また、この作品はとても面白い締め方をしていて、割りと気に入っています。
題名もよくできているなと思います。