吉祥読本

読書感想。面白そうな本なら何でも読みたい!

空飛ぶタイヤ --池井戸潤

なぜかやたらと忙しい今日この頃、2段組500ページ弱のボリュームは躊躇したのですが、
読んでよかったです。
こんな時期だからこそ頑張る人の話は自分にとっても力になりました。
睡眠時間はかなり削られてしまいましたが、それぐらいの価値は十分ありました。
この作品を紹介して頂いたfairwaiwaindさんに感謝致します。



「BOOK」データベースより引用
トレーラーの走行中に外れたタイヤは凶器と化し、通りがかりの母子を襲った。
タイヤが飛んだ原因は「整備不良」なのか、それとも…。
自動車会社、銀行、警察、週刊誌記者、被害者の家族…事故に関わった人それぞれの思惑と苦悩。
そして「容疑者」と目された運送会社の社長が、家族・仲間とともにたったひとつの事故の真相に迫る、
果てなき試練と格闘の数か月。



何件も起きていた不審な事故を起こし、しかし「整備不良」のレッテルを貼られ泣き寝入りしていた
運送会社の中で唯一立ち上がった運送会社社長の闘いを描いているのだが、
企業力、グループ力に力を借り中小企業を虫けらのように扱うメーカーの内部がこれでもかと描かれる。

 

取引先の引き上げ、自動車メーカーと同じグループ企業である取引銀行からの嫌がらせ、
事故被害者からの訴訟など、ひとりで受けとめるにはあまりにも過酷な状況のなかで
更にPTA会長として、子供が巻き込まれる問題にまで対処しないといけない事態に追い込まれる。

 

誰しもが投げ出したくなるような状況の中で彼は闘うことを選択する。
家族の協力、社員の協力を得て闘う姿には共感する。
危機に直面した時にこそ本物の味方が出てくるもので、普段はたいして評価していなかった
整備士の門田のような隠れた逸材が会社を助け、社長の心の支えとなるところなどは
その典型であろう。
勿論、何事にも普段からまじめに取り組んでいることが大事なのだが、
それをちゃんと感じることが出来る人がまわりりにいるのは幸せだ。

 

話しの展開は、まだ悪い事が?と思うくらい続くのですが予測どおりの結末を迎えます。
メーカーやそれに協力していた銀行担当者の末路だけではなく、
子供の学校で起きた騒ぎの収拾などは痛快で、一緒に闘っていたかのように素直に喜んでしまいました。
予想通りの結末とはいえ、この作品の面白さは全く損なわれていません。
むしろそれ以外の結末は許しません!



大企業は今、「コンプライアンス」という言葉をよく使っていますが、
できもしない言葉遊びはやめて欲しい。
社内で自己満足しているだけで、言葉の免罪符を自ら作り出し、
責任を放棄しているようにしか見えません。
そもそも、ちゃんとやっている会社には、コンプライアンスの遵守などという目標は
必要ないと思うのですが。
以前、QC活動という言葉も流行っていましたが、社会保障や、食品問題など
数え上げればキリがない事件の数々を見るにつけ、ほとんど中身がなかったことが
露呈したのではないでしょうか。
勿論全てがそうだとは思いませんが。。。。
法令を守ります、品質管理をちゃんとやります、というのは当たり前のことで、
宣伝に利用するだけのお題目にするのはやめてもらいたいものです。

 

少々脱線しました。スミマセン!



以前読んだ企業小説は大きな組織内の話しに終始する作品が多かったのですが、
中小企業の立場から見た本作は、現代の問題や世相をリアルに反映し、
多くの問題提起をしてくれている素晴らしく、また勇気を貰える作品でした。

 

先日野性の呼び声の感想の中で、
「この作品に共感する人と組んで仕事がしたい」と書いたのですが、
今回は、この作品にでてくる赤松運送の社長と組んで仕事がしたい、と思いました。
アクティブで、粘り強くて、情に厚くて魅力的な人物でした。
どう組むんだ?というのは別の話しなのですが(笑)
まずは赤松社長に、「組もうじゃないか」と言われるように研鑽しないといけないな。