吉祥読本

読書感想。面白そうな本なら何でも読みたい!

下町ロケット /池井戸潤

宇宙科学開発機構でエンジン開発に関わっていた佃航平は父親の跡を継ぎ、精密機械製造業の
佃製作所の社長となっている。
大学や研究所での研究実績をもとに今ではエンジンや周辺デバイスを手がけている会社だ。
技術力は大企業をも凌ぐとの評判だが、特に研究費用に金がかかる中小企業の経営は
取引先を一件失うだけで不安定となる。

 

そこへ突然大手企業から特許侵害で訴えられ、多額の損害賠償金を提示される。

 

ここからはいつもの池井戸作品らしく次から次へとめまぐるしい展開となる。
逆に特許侵害をしていてもおかしくない会社から訴えられ、銀行からの資金提供を失い、
技術屋ゆえに甘く見ていた裁判も不利になる。
技術力で生きてきた会社がどんどん追い込まれていく様はいつものことながら手に汗握る。
思わぬ援軍を得て逆転に転じても次のピンチがやってくる。

 

ロケットに関しては国内最大メーカーの帝国重工から特許を使わせて欲しいとの
オファーが来るが佃はロケットを飛ばす夢に近づきたいがために部品供給に固執する。
帝国重工との駆け引き、嫌がらせ、社内の意見の食い違いに悩みながらも
正面突破を狙う佃の姿に、プライドの大切さを感じる。



夢を実現することの大変さは誰もが感じていることでしょう。
理想を追ってもその通りになる人はほんの一握り。でも、そんなものと諦めてしまうのはつまらない。
幾つになっても、青臭い夢をいつまでも持ち続けることはとても大事なことだと思う。
諦めるのは簡単だが、それによって一時的に金や安定を得る代償として果たして釣り合いがとれるのか。
佃たちが苦労しながら夢に近づこうとする姿に勇気と元気がもらえた気がする。

 

勿論、都合のいい展開がいくつかあるので世の中そんなうまくいかないものだと思うが
しかし佃たちと一緒に一喜一憂するのは悪くない。
次の展開が気になって最後まで目が離せなくてあっという間に読んでしまった。

 

今回は銀行から出向してきている殿村がキーパーソンとして非常にいいところを持っていったが
秘めた熱さがとっても恰好良くて、最後は感動してしまいました。

 

大企業の論理とプライド、中小企業の悲哀とプライド、人と人のつながり、
どれをとってもうまい按配で退屈させない痛快な構成は、「空飛ぶタイヤ」に次ぐ出来だと思います。
こんな池井戸作品を待っていました。今後もおおいに期待します!