吉祥読本

読書感想。面白そうな本なら何でも読みたい!

百億の昼と千億の夜 --光瀬龍

HAYAKAWA ONLINEより引用
破滅の兆しはすでに現われていた――アトランティス崩壊を目撃したプラトン
最後の審判の日を予見したキリスト、天界の絶対者に接して破局の近いことを知った釈迦、
だがこれら賢聖達ですら宇宙を覆って迫る運命の全貌は知る由もなかった!
壮大に劇的に語られる宇宙黙示録にして、日本SFの金字塔。



題名は多くの方がご存知ではないでしょうか。
チラ見しただけで読んでいませんが萩尾望都さんのマンガが有名ですね。
日本のSFを語る上では避けて通れない作品でもあるようです。
昨年からひっそり積んでいた作品をいよいよ読みました。




 寄せてはかえし
 寄せてはかえし
 かえしては寄せる波また波の上を、いそぐことを知らない時の流れだけが、
 夜をむかえ、昼をむかえ、また夜をむかえ。
                                   (導入部より抜粋)



導入部の引き込み方は美しく凄い力を持っている。
壮大なる時間の流れが詩的に、的確に感じる事ができる導入部には痺れる。

 

地球の原始風景を描いているのだろうか?
進化の過程を描いているのだろうか?
そう思わせる始まりは、読み進めるうちに実は終末に向かっている事が理解できてくる。

 

次から次へと現れるある意味凄い登場人物のオンパレードに、あっという間に置いていかれた気分である。
なにせプラトン、キリスト、阿修羅王帝釈天、釈迦、弥勒など超豪華ラインナップである。
そこに惑星開発委員会なるものが絡んでくることで時を越え、海や宇宙やアトランティス
TOKYOなどあらゆる舞台を縦横無尽に駆け回る物語なのだ。

 

宇宙とは何か、どのように生まれたのか、生命とは何か、生きるとは何か、
そして滅亡や再生とはどのようなものか。

 

作者である光瀬龍の葛藤がそのまま作品となっているのだろう。
混沌とした世界は正直わかり難かった。途中、何度も投げ出したくなりました。

 

あらゆる宗教を越え、哲学的な思考にのっとった本作は、多分日本人にしか書けない作品でしょう。
他の宗教を否定する人にはこの混沌は書けないはずだ。
ありとあらゆるものをミックスすることを得意とする日本人らしさが生んだ、
日本特有のSFはそれだけで価値があるのではないでしょうか。

 

著者ご本人があとがきで書いている。

 

「・・・私にとって一番大事な作品であると同時に、また、二度と手に取りたくない、
 目をそむけたくなる作品でもある。・・・」



好き嫌いは別にして日本のSFの黎明期にこの作品が生まれたことは賞賛すべきことだと思います。
マンガの評判がいいようなのでそちらを読んでみようかな。
少しは悠久なる時間の流れと世界観が理解できるかもしれません。