吉祥読本

読書感想。面白そうな本なら何でも読みたい!

シャムロック・ティー --キアラン・カーソン

「琥珀捕り」に続いて読みました。
読み終わってしまいました。
でも読んで良かった。



以下本文より引用

 

「彼はまず、画板を百の四角に区分けする。それぞれの四角に番号をつけて小さな手控え帖に書き付ける。
しかるのちに、これらの四角をさまざまな色で塗り分ける。
さまざまな色合いの緑、黄色、青色、肌色、そのほかできるかぎり多様な混色をおこない、
おのおのの四角を着彩する。そしてその記録を、先述の手控え帖に書きとめる」
  ---カレル・ファン・マンデル



「世界は成立していることがらの総体である。」
  ---ルートヴィヒ・ウィトゲンシュタイン

 


 

簡単に言ってしまうと上の文章が全てを表しています。
101章(各3ページ位)に細かく配置された文章は、ジグソーパズルのようにつながり、
独立しながらかつ次々と連携し、色を換え、飛躍しながら迷宮を彷徨います。

 

読み始めはどのような話しがどのように進行しているのかがわかりませんが、
10章くらいで突然「なるほど、こんな展開か」という読み方みたいなものが掴めたようです。

 

短い章立てなので読みやすいのですが、どのような展開になるのかは皆目検討が付きません。
とり留めのない話のようでありながらヤン・ファン・エイクの「アルノルフィーニ夫妻の肖像」を軸に
展開される色の物語、幻想的な物語、各種の薀蓄などが織り成す物語は、
何とも言えない心地よさを感じさせます。
そこにオスカー・ワイルドやコナン・ドイルなど実在の人物など、ごく自然に絡んできます。
この「奇妙"てきれつ"マカ不思議」な世界を垣間見る手助けをするのが、シャムロック・ティーなのです。

 

ヤン・ファン・エイクの「アルノルフィーニ夫妻の肖像」といえば名前を知らなくても
きっとどこかで見たことがある人が多いのではないでしょうか。
wikiにリンクしましたのでご覧ください。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%A4%E3%83%AB:Jan_van_Eyck_001.jpg

 

正直なところこの絵に思い入れは無かったのですが、琥珀捕りでのフェルメールと同様、
読んでいるうちにどんどん興味が涌いてきます。
この絵は本書にも掲載されているので何度でも見ることができます。
琥珀捕りのフェルメールもそうして欲しかった。。。)

 

絵の奥にある鏡をじっと見つめてしまいます。

 

女性の服の皺をじっと見つめてしまいます。

 

ソファの装飾をじっと見つめてしまいます。

 

犬をじっと見つめてしまいます。

 

それ以外の箇所も含め、何度でも見つめることになります。

 

何が見えてくるのでしょう。

 

パズルを組み合わせた「総体」はきっと読み手によってそれぞれ違うものが見えるのでしょう。
琥珀捕り」同様、何度も読み返したくなる作品だし、ずっと手許に置いておきたいと思います。



解説は桜庭一樹さんが書いています。ネット上にまるまる掲載されているので興味のある方は
読んでみてください。
自分のとりとめのない感想ではきっと伝わっていないと思いますが、
これを読むと俄然興味が涌くことでしょう。
http://www.webmysteries.jp/translated/sakuraba0902.html




それにしても「アルノルフィーニ夫妻の肖像」もロンドンのナショナル・ギャラリーにあるとのこと。
この作品も鑑賞した記憶が全くない自分。
何しに行ったんだろう?
返す返すも残念な男だな、と自分をなじりながら小突きたい気分です。