吉祥読本

読書感想。面白そうな本なら何でも読みたい!

宵山万華鏡 --森見登美彦

「BOOK」データベースより引用
祇園祭宵山の京都。熱気あふれる祭りの夜には、現実と妖しの世界が入り乱れ、
気をつけないと「大切な人」を失ってしまう―。
幼い姉妹、ヘタレ大学生達、怪しげな骨董屋、失踪事件に巻き込まれた過去をもつ叔父と姪。
様々な事情と思惑を抱え、人々は宵山へと迷い込んでいくが…!?
くるくるとまわり続けるこの夜を抜け出すことは、できるのか。



宵山とはどんな雰囲気なのであろう。いつか見に行きたい、そう思わせる作品です。

 

「きつねのはなし」に似ている部分もあるというゆきあやさんの記事に触発され、
「きつね~」を忘れないうちに読むことにしました。夏の間に読んでおきたかったし。

 

まず、きらびやかな表紙が目を引きます。
更にカバーをはずしてみると趣の違う「裏」の世界が展開されています。
見事に作品イメージを具現化していて、表紙も含めての作品作りには拍手を送りたい。
作り手の力の入れ具合が感じられます。

 

宵山姉妹」 「宵山金魚」 「宵山劇場」 「宵山回廊」 「宵山迷宮」 「宵山万華鏡」の
6話構成ですがそれぞれが同じ日の出来事であり、主役であり、脇役であり、共演者となる連作でもある。
小学生の姉妹、画廊の主人と姪、乙川という古道具屋と裏方たちに光を当てる話しがあるかといえば
その光によってできた影の部分が別の話しではスポットを浴びるのだ。

 

同じ出来事でも別の人物が見れば違うものが見えてくる。視点の切り替えによる構成は絶妙である。
「きつね~」のような静かで幻想的な話しがあるかと思えば、そこに「四畳半神話大系」的反復に近い
展開があったり、「夜は短し歩けよ乙女」のようなバカバカしい壮大な大仕掛けに全精力を注ぎ込む
愛すべきアホたちの話しもでてくる。
最近読んだせいか「【新釈】走れメロス~」などで森見さんが見せてくれたエッセンスも感じられる。
この作品が初読みであっても楽しめると思うが、以前の作品を読んでいる人にはより楽しめる
「おまけ」がついていて嬉しい。
自分も全作品を読めているわけではないので、気付いていないおまけがまだあるかもしれません。

 

アホ臭い妄想の嵐的作品も良いのですが、「きつね~」的な静かで妖しい作品も好きです。
流れに乗る金魚のように人の間をすり抜けていく赤い衣の少女たちの存在は特に印象的。
「きつね~」にも出てきたけど、金魚って結構夏の妖しさを表現する小道具になるんですね。

 

過去の作品の要素を融合させながら変幻自在に虚構世界と現実を操り、往来させてしまう森見さんは、
徐々に洗練されてきたという感じがします。
洗練された青臭さは、もう青臭さと言うべきではないのでしょうが、学生的青臭さから脱皮し、
大人のアホらしさに移行し始めたのなら少し寂しい気もしつつ、次の段階を歩むモリミーを
応援もしたいです。



ただし、孫太郎虫の大量発生を歓迎する気は、毛頭ない。