吉祥読本

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袋小路の男 --絲山秋子

「BOOK」データベースより引用
高校の先輩、小田切孝に出会ったその時から、大谷日向子の思いは募っていった。
大学に進学して、社会人になっても、指さえ触れることもなく、ただ思い続けた12年。
それでも日向子の気持ちが、離れることはなかった。川端康成文学賞を受賞した表題作の他、
「小田切孝の言い分」「アーリオ オーリオ」を収録。



恋愛小説は苦手と言いながら、恋愛小説を読んでいるのは何ゆえ?と自問中。
絲山秋子作品はこれで3作目です。



「袋小路の男」「小田切孝の言い分」はそれぞれ男女の視点、立場で二人の微妙な関係を物語っています。
きっかけを逃した二人、と言うかきっかけを避けたのでは?と思われる男女が
12年間のプラトニックな関係を続け、お互いに必要な存在であるにもかかわらず一定の距離を保ち続けてしまう。
お互いの中にある子供の部分と大人の部分が微妙にずれながら絡み合った「信頼」と「補完」の関係を続ける。
お互いを最も知り、必要としているにもかかわらずその距離は縮まることがない。

 

袋小路に住んでいるだけでなく状況的にも袋小路にいる男、を好きになってしまう女性の心理は
読んでいても痛々しかったりする。
かと言って、あまり共感もできない違和感を感じながら読みました。

 

一方、袋小路にいる男の心理状況にも違和感を感じて共感できませんでした。
ただ男側の心理を表現することで、二人の関係が立体的に見えた気がします。
またそれによってこの女性の中にある小さな狂気?みたいなものを感じた気がします。

 

共感できなかった、とは書いてますがこれは批判しているのではなくむしろ評価している褒め言葉だと思ってください。
読み手にとって本来踏み込んで欲しくない心理の一部をさらけ出し、見せ付けられる事でなぜか
ザワザワとさせられつつ、とても客観的にこの二人の関係を見られるように表現されていたと思うのですから。
むしろ共感したくなかったのかもしれません。



上記2作とは関係のない話、「アーリオ オーリオ」は叔父と中学3年生の姪との間で文通というアナログな手段で交わされる交流を描いているのですが、「袋小路の男」「小田切孝の言い分」セットよりも好きな作品でした。
宇宙(星)の話しを絡めたストーリーなので、それにひっかけて手紙を出してから相手に届くまでの
期間を「3光日」と表現するあたり、なるほどねえと感心しました。
独特の静かな雰囲気が漂うこの感じは嫌いではありません。

 

ただし、解説の人曰く
~「アーリオ オーリオ」を読み返す度、ジャズ・ピアニストのビル・エヴァンスの名品「ワルツ・フォー・デビー」を思い浮かべる~
と書いていますが、残念ながら私には無音で何も音楽的イメージを感じませんでした(にぶいのかも)



ところで袋小路の男に話しを戻すと、小田切孝は「エグジット・ミュージック」というジャズ・バーでアルバイトしています。
にもかかわらず読んでいる最中、私の頭の中では昔のドラマ「俺たちの旅」の雰囲気を感じていたため
中村雅俊の歌う主題歌や、バンバンの「いちご白書」をもう一度、など70年代テースト溢れる音楽が流れていました。
そこは自分の感覚に焦っておいたほうがいいのでしょうか。。。
絲山さんの文章はとても上手いなあと感じつつ、自分の感覚のショボさは絲山さんに対して申し訳ないなと思うのでした。



この作品には「純愛小説」との謳い文句もあるようですが、純愛小説だとは思えませんでした。
恋愛小説が苦手な私が、読めてしまうのですから。