吉祥読本

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ばかもの ::絲山秋子

気ままな大学生と、強気な年上の女。かつての無邪気な恋人たちは、気づけばそれぞれに、取り返しのつかない喪失の中にいた。すべてを失い、行き場をなくした二人が見つけた、ふるえるような愛。生きること、愛することの、激しい痛み。
そして官能的なまでの喜び―。絶望の果てに響く、愛しい愚か者たちの声を鮮烈に描き出す、待望の恋愛長篇。(「BOOK」データベースより引用)



今年の初め頃に読んだっきり久しぶりの絲山作品。何だかんだで6冊目。なぜか気になる作家さん。

 

どこにでもいそうなちょっと自堕落な学生「ヒデ」と、気が強い27歳の「額子」はなんとなくお互いに心地よく都合のよいあまり将来を深く考えていないようなカップルだった。
しかしある日強烈な別れを叩きつけられたヒデは、いつの間にか酒に溺れ、気付かないまま落ちて行き、アルコール依存症になってしまう。
仕事も身につかず、いつか必ず立ち直れると思いながら簡単に戻れない男の姿は題名のまま「ばかもの」である。

 

読み始めは男女の性描写が多く何だかなあと思うが、男の心理描写や客観的にしか語られない女のキャラクターがうまく表現されていたと後で気付く。
そしてその後の男の泥沼にとっぷりとはまっていく様は「そんな呆気なく?」と思うほど。
絲山さんの作品はどの作品も細かい描写を省いていて、読みやすいが行間から伝わってくるものがストレートで容赦ない。この作品も同様だ。
宗教にはまっていく友人や、友人の紹介で知り合った女性との結婚と失敗など読んでいると辛い内容ばかりだが、なぜか先を読みたくなる。

 

最後は同じく結婚に失敗し、喪失した者同士として再会するヒデと額子がゆっくりと
再生への道を探り始める。
紹介文には「恋愛小説」とあるが、愛すべき「ばかもの」たちの物語は決して恋愛小説には思えない。
人間の弱さをさらけ出し、もがきながら生きていく二人を「ばかもの」とは思えない自分に気が付いたとき、絲山さんの凄みを感じた。