吉祥読本

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ジャック・マイヨール、イルカと海へ還る /ピエール・マイヨール/パトリック・ムートン

題名が似通っていてわかりにくいが、ジャック・マイヨールの兄による弟ジャック・マイヨールの評伝。
子供の頃から死を選択する晩年までを身近なところから見ていた兄の言葉は、
一定の距離感を保ちながら客観的に弟を見ている。
思っていたよりも肩入れが少なく読みやすかった。共著のおかげかもしれないが。

 

内容としてはジャック・マイヨール「イルカと、海へ還る日」を別角度から補足しているので目新しさはないが、本人が敢えて詳しく書かなかったと思われる弟子の女性のことが細かく書かれていた。
お互いに影響を与え合った二人を描くことでマイヨールの心理を表現したかったのかもしれない。
マイヨールが不安定になっていく要因に、映画で描かれたマイヨールと現実のギャップがあるようだが、弟子である女性との別れも精神的不安定さに拍車をかけたのかもしれない。

 

徐々に生きることに興味を失うことは、歳を重ねれば誰もが味わう感覚かもしれないが
超人的な能力を持ちながら自然と戯れてきたマイヨールにとっては我慢ができなかったのだろう。
不安定さを増し、関係者に毎日のように死を仄めかしている姿は痛々しい。
最終的には首を吊るという結末を迎えるが、それまでの生き方からすると、そぐわない選択に感じる。

 

「人間が万物の霊長だという奢りを捨てない限り、環境も平和も維持することは出来ない」

 

晩年にマイヨールが語った言葉だが、ここにヒントがあるのだろうか。
兄は兄なりの解釈を書いているが、何かしっくりといかない。
イルカと戯れながらホモ・デルフィナスとして最後を迎えたのであれば幸せだったのでは?
などと勝手に思いを巡らせてしまった。