吉祥読本

読書感想。面白そうな本なら何でも読みたい!

まっとうな人生

著者:絲山秋子
出版社:河出書房新社

 

精神病院からの脱出行を描いた前作『逃亡くそたわけ』から十数年が経ち、

花ちゃんとなごやんはあれからお互いに家族を持ち、偶然岡山で再会する。

前作から随分経過したが、方言を効果的に織り交ぜながらの会話は変わらず和む。

少しだけ感情が盛り上がるとつい出てしまう方言によって少しニュアンスが

柔らかくなり時に笑いを誘うが、感情が昂ぶるときの方言は緊張感を醸し出す。

このあたりの表現は巧い。

コロナ禍で双極性障害と向き合いながら普通に暮らす姿を綴る絲山さんの言葉は

同じコロナ禍を体験をしている読み手に寄り添い、心地よいが時にドキリと

させられる。

マスクや消毒液を求めて薬局を彷徨い、友人どころか家族と会うのも

躊躇する日々に何を思っていたか、思い出す。

コロナ禍での葬儀に関しても同様。

同調でき、代弁してくれると案外気持ちが落ち着くものなんだな。

第七波の最中にもかかわらず緊張感が薄らいでいるが、

世の中も自分もどのように変化していくのだろう。

とにかくどうであれ人生は続いていくのさと、本書を読んで改めて思う。

 

土地勘が無いのでちょっと可愛らしい地図は有難かった。