著者:小川哲
出版社:早川書房
ポル・ポトの隠し子と言われるソリアと田舎の村で育つ天才児ムイタックが主役。
虐殺を免れるためにどう生き残るか、緊張の連続で史実に
かなり沿ったかたちで物語は進む。
不思議な能力を持つ人物が数人出てくるが、SFという感じはしない。
上巻はとにかく目が離せないまま。
下巻はいきなり時代が飛び、ソリアは国のトップを目指すべく政治家となっている。
一方、大学で脳波測定を研究し、ゲームを開発する教授となっているムイタック。
上巻とのギャップが大きくて戸惑う。
理想と現実の間で二人が迎えた結末は思いもしなかったが、
読後に上巻での二人のゲームのシーンと会話を読み直すと、
そこに全てが凝縮されていることが分かる。
登場人物の会話などの至るところに著者の思考というか思想が
散りばめられるがため、追いつくために頭の回路の温度が
多少上昇した気がするが(苦笑)、著者の思考の揺らぎが
迸るように表出しているがためだろう、多少粗さがあるも、
独特の雰囲気と勢いを感させる良い作品だった。